トークン活用で自律型コミュニティ構築へ~新たな”バーチャルワールド” 目指すナナメウエ

藤井 貴大 anow編集部 エディター/リサーチャー


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株式会社ナナメウエ代表の石濵嵩博氏は、大学在学中の2013年に同社を立ち上げた。主にSNS領域での事業を展開して10年を迎えようとしている今年、同社が運営するSNS「Yay!」は「誰もが素を出せるweb3時代のバーチャルワールド」としてブランドリニューアルを果たし、新しい時代のコミュニケーション構築を目指している。

 石濵氏の言うとおり、人との出会いは偶然に左右される。だからこそ私たちは限られた出会いの中で、人間関係を築き、ときに失敗し、学び、そうして人生を生きてゆくうえで大切なものを数多く得るだろう。

しかし、石濵氏は新たな出会いやつながりをある程度コントロールできるかたちで構築できれば、人生に大きな価値を生み出すことができるのではないかと発想を転換する。「つながりを科学する」をテーマに掲げ、よりフラットで良好なコミュニティ形成を目指す石濵氏に話を伺った。

PROFILE

石濵 嵩博 株式会社ナナメウエ 代表取締役

2013年5月創業、株式会社ナナメウエの代表取締役。「つながりを科学する」をミッションに、SNSの領域に従事する。2020年1月に「すべての人に居場所を」というコンセプトに、誰もが素を出せるバーチャルワールド「Yay!(イェイ)」をリリース。2022年4月にシリーズBで総額16億円の資金調達を完了し、トークンエコノミーの形成によりweb3時代の新しい居場所を生み出し、日本のソーシャルの民主化を牽引する。

誰もが気軽に発言できるSNSへ

── まずはYay!のコンセプトをお伺いできればと思います。

石濵:Yay!が目指すのは、メディア化しないSNSです。今、TwitterやInstagram、Facebookなどのユーザーの多くは、クオリティの高いコンテンツや、自分の好きなことだけを見るという人が多くなっていると感じています。例えばインフルエンサーの登場などがわかりやすい例ですが、SNSはひとつのメディアになっていると感じます。


SNSの楽しさは、誰でも発信ができて、しかも反応がもらえるというところにあったはずなんです。しかし今や「映え」や意識の高い投稿が求められ、発信することのハードルがどんどん高まっている。Yay!はSNS本来の楽しみ方に立ち返って、誰しもが何気ないことを投稿できる場所を目指しています。

── いつのまにかバズが最大の目的となってしまったSNSへのアンチテーゼということですね。Yay!の特徴はどういったところにあるのでしょうか。

石濵:まず、趣味嗜好を軸としたサークルを通して興味関心が近い人とつながる仕組みを設け、なおかつ年代や興味関心で区切られたタイムラインを設定しています。そうすることで自分の個性を表現しやすい環境を形成し、より深いつながりを作ることにつながっていくと考えています。

また、Yay!では、例えば「ゲームを一緒にプレイしたい」など、サークル内で目的がある程度統一されているため、サークル内で立ち上がっているグループ通話には誰でも気軽に参加できるような土壌が作られています。他のSNSのようにフォローして相手のプロフィールや利用方法などを伺う必要はありません。

出所:ナナメウエ

── 興味関心の近い人とつながることができるというメリットがある一方で、先ほどおっしゃった好きなことだけを見るという課題が残されてしまうようにも感じます。

石濵:おっしゃるとおりです。だからこそ、気軽に雑多なコンテンツを発信できるSNSを作りあげることで、現時点でそれほど興味がないことに関しても幅広くフラットにつながっていけるコミュニティを作れるようにしていきたいと考えています。

そうした想いから、Yay!は「他者の価値観に寛容であるべき」というスタンスをコミュニティ全体で掲げています。

web3時代のSNS

── トークンエコノミーの導入によって、web3時代のSNSとしてブランドリニューアルをされた経緯をお教えください。

石濵:この数年、ブロックチェーン技術を活用した新たな仕組みが急激に進歩しています。トークンを使った独自の経済圏を導入することで、プラットフォームなどの今まで価値がつけられなかったものに対して、価値をつけることができるようになりました。


例えばSTEPNというアプリが一時期話題になりましたが、STEPNは「Move to Earn」つまり「歩いて稼ぐ」というコンセプトのアプリ群の先駆け的な存在です。STEPNはすごく画期的な取り組みだったと思っています。STEPNでは、バーチャルシューズを購入して走るだけでトークンを稼ぐことができる。

つまり、ブロックチェーンの技術を使うことで、「健康にいいこと」を行うという行為自体に価値をつけ、お金に換算することを可能にしたんです。ブロックチェーンを使えば「価値のインターネット」を作ることができるわけです。

── 人とのつながりも、それこそ価値のつけられないものですよね。

石濵:そうなんです。人に優しくしたり、コミュニティを活性化させるということがいくらの価値を持つのか?と聞かれても誰にも答えられません。そこでトークンを導入し、SNSのコミュニティ内で循環する経済を作りあげることができれば、人とつながることということにも、目に見えるかたちで価値をつけることができるようになります。

出所:ナナメウエ

── 具体的にはどのようなかたちでトークンが付与されるのでしょうか?

石濵:Yay!のコミュニティや他者への利他的な行動に対して、トークンをお配りする仕組みを考えています。また、コミュニティへの貢献によってトラストスコアというユーザーランクが上がるような仕組みも導入する予定です。例えばインフルエンサーのフォロワー数とは大きく異なり、あくまでもコミュニティへの貢献を基準にするというのが肝です。


トークンエコノミーはひとつの経済圏であるため、トークンの価値が上がるということは、そのまま受け取れる報酬が増えるということを意味します。コミュニティに貢献することでトークンが得られるとともに、トークン自体の価値が上がって報酬が増える。そうした好循環を生み出すことができれば、既存のSNSとは別のかたちで、個性を表現しながら新たなつながりや居場所を作ると同時に、価値を生み出すことが可能になると考えています。

── ユーザー自身が自律的に作りあげていくコミュニティということですね。

石濵:最初は僕たち運営側が意思決定を行いスピーディに開発を進めていきますが、数年経つうちにユーザーがガバナンストークンを所有し、民主的に将来を決めていける設計にしたいと考えています。

メタバースへの挑戦

── Yay!は「バーチャルワールド」として、メタバースの形成にもチャレンジされるんですね。

石濵:今までお話ししてきたようなトークンを活用したコミュニティの延長線上にメタバースがあると思っています。メタバースと聞いて、多くの人は3Dゴーグルをつけて現実のようにアバターを動かす世界をイメージすると思います。しかし、それはあくまでもコミュニティの熱量を上げるための手段でしかなく、メタバースとは独自の経済圏を持ったコミュニティが現実世界とは別の場所に存在することを指しているのだと思います。


今は一部のインフルエンサーを除いて、どれだけSNSに参加しても食べていくことはできません。しかし、今後はコミュニティに貢献するだけで稼げる時代がやってきます。そのとき初めて生活基盤がバーチャルに移行し、本当の意味でもうひとつの世界だといえるような瞬間がくるんです。

── リアルとバーチャルを区別して、SNSを現実世界での孤独感を癒やすために利用するという方も多いと思いますが、Yay!ではもっと踏み込んだ意味でもうひとつのリアルを作るということですか。

石濵:もちろん孤独感の解消という要素はあると思いますが、今後リアルとバーチャルの区別自体がどんどん薄れていくだろうと思います。リアルとバーチャルのどちらが優れているかではなく、どちらも重要視されていく。

だからこそ、Yay!を通じて話したりゲームをしたりしながらお金を稼ぎ、現実と同じように生活できるような世界を作りあげたいと思っています。

(「web3」の表記:インタビュイーの表現に則する)

いま私たちが使用しているSNSの姿が変わったのはいつごろからだろうか?メディア化したSNSのすべてが決して悪いわけではないだろうが、バズやファンダムに回収される“つながり”は、見知らぬ人と何気ないことを話したあの空間、価値のつけられないものであるはずの“つながり”からは遠くかけ離れてしまった。

リアル/バーチャルの区別を前提としないバーチャルワールド内での生活は、かつて私たちがSNSに求めていたはずのつながりをふたたび私たちにもたらしてくれるだろうか。石濵氏の言葉は、Web3時代の暮らしを想像することを通して、改めて自分にとって大切な他者とのつながりを考える機会になると感じられた。

記事協力(杉本 航平)

藤井 貴大 anow編集部 エディター/リサーチャー

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