海藻が地球を救う、知られざるコンブの魅力

幸海ヒーローズ 富本 龍徳 氏

原 健輔 anow編集部 エディター/リサーチャー


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最近、読者の中で”コンブ”を利用した方はどの程度いるだろうか。料理の出汁に使うことが一般的だが、衣類の繊維としての利用やお風呂での利用、CO2削減なさまざまなことに活用ができる。今回はコンブを養殖することでSDGsに取り組む幸海ヒーローズ共同代表の富本龍徳氏に取材した。

PROFILE

富本 龍徳 幸海ヒーローズ 共同代表

コンブを単なる食材と捉えず、森林に代表されるグリーンカーボンの約5倍のCO2を吸収する温暖化対策に寄与する海藻としての機能に着目。地元漁協と連携して、海の環境保全に貢献するコンブを栽培・活用する。2020年、横浜市環境活動賞受賞、環境省グッドライフアワード 環境大臣賞受賞。

ーー元々、富本さんは非営利組織(一般社団法人)で活動されていたようですが、なぜ新たに「幸海ヒーローズ」を発足されたのでしょうか。

富本:もともと一般社団法人里海イニシアティブという組織があったのですが、コンブのすばらしさを広める活動をしていく中で、よりビジネスと社会貢献の両方に繋がる活動の必要性を感じ、2021年に新しく出発しました。

ーー団体としての活動内容、事業概要を教えてください。

富本:コンブを養殖する生産とコンブの利活用がメインの事業です。ひとつは、コンブが生育してる間(養殖期間)はプランクトンが増えて、プランクトンをエサにする小魚が集まってきたり、プランクトンや小魚の住処になり、生態系に良い影響があります。結果として我々人類の食料問題の解決のひとつに繋がっていくと考えています。

ほかにも気候変動や地球温暖化に対してもコンブは活躍します。コンブを養殖すると二酸化炭素の吸収量が他の海藻と比べると高いです。1年間に吸収する二酸化炭素の量を1ヘクタール(100m×100m)の面積あたりで比較すると、グリーンカーボンに代表される杉の木が3.5トンという二酸化炭素吸収量に対して、コンブはなんと16トン、約5倍(※)もの吸収量があるところにものすごいポテンシャルがあると感じています。

意外と忘れがちなのですが、そもそものメカニズムとして、陸上の植物のようにコンブや他の海藻も二酸化炭素を吸収し、酸素を作り出し、海の中で光合成を行っています。

※出典:独立行政法人水産総合研究センター「Fisheries Research Agency NEWS vol41」

ーー空気中の二酸化炭素が溶け込むのですね。

富本:大気中の二酸化炭素濃度が濃いほど、海はそれを吸収していきます。コンブはその二酸化炭素を餌として吸収し、どんどん大きくなります。同時に酸素も作り出してくれるので、貧酸素の海に対してのアプローチや、酸素が増えることで温暖化の進行を遅らせるなど、コンブは環境に貢献しています。こういった環境問題からアプローチをしながら生産、利活用までしている組織になります。

ーーコンブは一年中、採れるものなのでしょうか

富本:皆さんコンブと言うと日高昆布とか羅臼昆布とか北海道産のいろんな種類のコンブを思い浮かべますよね。北海道よりも南は、水温がだんだん上がってくると海の中でコンブは枯れてしまいます。陸の木が季節の変わり目にだんだん茶色に変色していくように、コンブも枯れてしまうのです。我々が育てている横浜の場合、11月中旬くらいの水温が下がり始めたときに種付けを始めて、4月には収穫をします。海が温かいといつまでも生物は元気なので、ワカメやコンブなどの海藻を餌として食べてしまうんです。約4カ月ぐらいの生育期間なのですが、それでも4〜5メートルぐらいには育ちますね。

ーー4メートルはかなり大きいと思うのですが、生産時期や場所が限られていて、現在の収穫量は需要や売上として1年持つものなのでしょうか。

富本:良い質問ありがとうございます(笑)。

たくさんの制約や制限の中で行える範囲というのが決まってくるので、地域によって大きい小さいの規模の差があります。もともと横浜ではコンブ生産の横浜モデルをつくるところからスタートしています。コンブ自体は北は北海道から南は九州まで養殖できることがわかっているので、横浜で生産から消費までできるのであれば、他の地域でも6次産業化モデルの“横浜モデル”が横展開できると考えています。年々取り組みへの注目度が上がるにつれてコンブの量が足りるかといえば、足りてないというのが現状なのと、まだ出口をしっかり作れていない利活用のプロジェクトもあったりもするので、試行錯誤しながら活動している現状ですね。

ーー4月に収穫されて、それ以降はどういった活動をしているのでしょうか。

富本:1年のサイクルがどのようなものかという話ですが、コンブを養殖してる間はコンブがどれくらい成長しているのか船に乗ってコンブの長さを測ったり、ちぎって量を測ったりなどモニタリングします。本当にアナログな方法です。しかし、この計測も実は重要なことでして。。

ーーどのような目的があるのでしょうか。

富本:コンブの品質や成長具合を見る通常の目的に加え、「ブルーカーボン」という観点で計測もしています。ブルーカーボンは海の温暖化対策としてのキーワードで、藻場の海洋生態系に取り込まれた炭素のことを言います。コンブも海で二酸化炭素を吸収するのでブルーカーボンに役立っているのですが、これが金融的な価値と結び付く話になってきます。

今でもワカメやコンブをつくり、それが商品価値として売買が成立するという商習慣が大半を占めています。一方で海藻の養殖や藻場づくりなどブルーカーボンに関連する取り組みは排出権の取引にも役立ちます。カーボン・オフセットといって二酸化炭素排出量を削減する取り組みなのですが、例えば企業は二酸化炭素排出量をこれくらいに抑えるという目標を設定しても、自分たちのチカラだけでその目標を達成することが困難な場合、海藻生産者側で減少させた二酸化炭素をクレジットとして換算し、目標よりも多く二酸化炭素を排出してしまった企業が購入することで相殺しましょうというものです。これがビジネスとしても活況となっています。我々のようなコンブ生産者は二酸化炭素を多く吸収し、二酸化炭素を排出するよりもむしろマイナスにしている存在というわけです。

※カーボン・オフセットは、市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等クレジット)を購入すること、又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部または一部を埋め合わせる取り組み。

ーー環境問題に関する講演活動もしていると伺っていますが。

富本:そうですね。3〜4月にかけてコンブを収穫するタイミングで一般の方に来て頂いて、収穫後の作業を体験してもらったり、環境の話をしたり、採れたてのコンブのしゃぶしゃぶを食べてもらうイベントを開催しています。皆さんのイメージの“昆布(コンブ)”って乾燥昆布じゃないですか。料理で出汁も取らなくなってきていますし、なかなかコンブに触れる機会も少なくなってきている中で、横浜でもコンブはできるし、コンブっておいしいし環境にも良いんですよねというところを知ってもらう機会として毎年続けています。環境教育の観点で小中学校や、SDGs関連で経営者の方に海の話やコンブに関する取り組みの話をさせていただいています。

ーー富本様のご来歴、なぜコンブに携わっているのかお聞かせください。

富本:私が30代に入った頃から一緒に起業しないか?という話を何件も頂くタイミングがありました。ひとつはずっと医療の分野で大きくビジネスをしてきた70代のおじいさんの話。当時、糖尿病の人のための新しいベッドを作りたいとのことでした。糖尿病の方は週3回ぐらい病院に通って血液交換しなければらなくて、交換中はずっと寝たきりの状態らしいのです。その間楽しく過ごせるベッドを作ろうと。海外に知り合いのデザインチームがあるから、彼らとのやりとりしてくれないか?ということで動いていました。ほかには飲食関係でケータリングの事業を始めたいという方もいました。どの事業も事業化することができなくて、僕は全然センスがないのだなと落ち込んでいました。

そんなとき、地方の産物を東京に紹介するという営業支援をやっていた頃、デパートで開催された物産展に参加していました。隣町のアワビの陸上養殖をしている出店者さんにコンブは人間が食べるだけでなく、環境にも良いのだよという話を聞いて、コンブが食用用途でしか認識のなかった僕はとても衝撃を受けました。自分にとってとても遠い話にあった土砂災害や山火事、海外のハリケーンなどの環境問題が自分の身近な素材で解決できるかもしれないと思った瞬間からのめり込むようになりました。海は海で、磯焼けという言葉があるのですが。

ーー”磯焼け”というのはどういったものでしょうか。

富本:磯焼けは海の中に海藻がなく砂漠のような状態です。温暖化でワカメやコンブなどの海藻が枯れてしまったり、ウニやアイゴなどの生物が海藻を食べ尽くしてしまうと磯焼けを起こします。コンブ養殖が磯焼けの解決にも一役買ってくれています。

ーー富本様には多くの方からビジネスのお話があったかと思うんですけど、お話をいただけた背景はあるのですか。起業したいお知り合いが多かった、前職で何かされてたとか。

富本:なぜですかね(笑)。そこは私も不思議に思うのですが、私の人となりを見て話をしてくれたことに対して、自分の知見から、当たっていても間違っていてもこういうのはどうですか?と提案することが多いので、そこから一緒にまずは何かやってみようと事が動き出すことが今まで多かったのかなと思います。

ーー仲良くなる秘訣は何かあるのでしょうか。

富本:紹介とか、間接的にこんな人がいるよと繋げて頂くことがあった時にはまずは会ってみる 笑 もしかしたら自分が今やろうとしてることに紐づいていくかもねくらいの感覚で。その連続です。つながるところはつながるし、全然つながらないこともありますが、人へのお節介の延長でつながっていくことが多かった気がします。

ーーコンブの活動をする中で出てきた新しい課題とか、良かったこと、人に助けられたエピソードなどあれば教えてください。

富本:日本のコンブのシェアは北海道が約95%あって、それ以下の本州ではそもそもコンブを養殖している漁師さんが少ないです。海藻養殖だけを行って、儲かっているところが少ないので、環境に良い取り組みであることを伝えてもなかなか共感してもらえません。一方で温暖化の影響で海水温が低い地域に魚がどんどん逃げて、もともと獲れてた魚が全然獲れないとか、海外では魚食が普及してきたので海外の人たちが魚をたくさん獲ってしまう。資源が枯渇するんじゃないかという不安が水産業界全体に来てると思います。水産業界はたくさん課題を抱えていまして、IT業界のように新陳代謝が活発で、常に新しい人が入ってきて、新しいサービスが生まれてという状態と比較して、どんどん高齢化が進んでいます。地域によっては若手と言われる人が50代の人とか・・・これは本当に喫緊の課題と感じていまして、漁業が魅力的だから、どんどん若い人が参加したいという流れを作らないと将来的にも先細りしてしまうという不安があります。

ーーその一つの解決策として、コンブを養殖して魚も増やしてっていうのはありますよね。

富本:増やしていくという話ですと、コンブの良さは畑でイメージしていただけると分かりやすいのですが、海自体がミネラル豊富で、海水を栄養にして波の力で育つので、コンブの養殖棚で毎日何かをすることはありません。畑で何か育てようとすると毎日水やりをして、肥料をあげて、草むしりもしてということをしなくちゃいけないんですよね。その作業が全然要らないです。真水を作り出す新しいエネルギーが不要で、海水で育ってくれるため、環境負荷が全然ありません。漁師さんは11月中旬に種付けしたらあとは海が育ててくれる。一見するとアナログですが、とても画期的で効率が良いです。冬場はどうしても漁獲量が下がってしまう漁業の“冬場にできるコンブ養殖”は、漁師さんの副収入にもつながっていくので、その点でコンブの価値を見出してほしいです。

ーー実際、他の地域の漁師さんにコンブの養殖業を勧めているのですか

富本:取り組みに興味あるところから連絡があれば、やってみませんか?という話をさせていただいています。大前提として本当にその海で、まず育つのかという検証でワンシーズン消費してしまうんです。実際、本格的に始動するまで時間のかかることではあります。

ーーそうですよね。まずやれるかどうかの実験が必要ですね。

富本:家にある水槽くらいのサイズでシミュレーションできたら最高ですよね。例えば、サンゴ礁とAIを掛け合わせた技術をもっているイノカさんというスタートアップ(東京都港区)では、世界中の海の環境をAIの力で目の前の水槽に再現できるらしいです。ぜひ、取材に行ってほしいです(笑)。

ーー気になりましたのでぜひ行かせていただきたいなって思います。

富本:九州地方や日本海側など、横浜以外の他地域でもスピード感を持って広げていけると思っています。海外の海もそうですが、水質浄化や温暖化対策の観点で海藻が環境に良いという認識が世界的に広がってきています。ここ数年でフランスでは3つほど海藻のブランドが立ち上がっていて、業界が盛り上がってきたなと感じています。インドやオーストラリアなど海外からは現地でコンブ養殖はできないのかというご連絡を頂く機会が増えました。

ーーコンブの利活用についても伺えますか?

富本

最近サウナが流行っているじゃないですか。そこでサウナハットにコンブをコーティングをしたという事例があります。群馬県の繊維会社さんから連絡をいただきました。コンブの染色の特許を持っているが、より可能性を広げるために一緒に開拓しないかという話です。

コンブには水分をたくさん吸収する力と、それをずっと保っておく力に特徴があるんですね。吸水スピードでいくと、原綿の100倍ほどというデータが出ています。保水率が高く、蒸発しづらいので、サウナで髪の毛が乾燥しないようにかぶるサウナハットにはより相性が良いと思っています。

ほかにも海外のカリフォルニアを中心に盛んに行われている研究がありまして。牛のおならやゲップには、二酸化炭素よりも悪影響があるとされている大量のメタンガスが含まれていて、コンブではありませんが、家畜の餌に海藻を少し混ぜるだけでメタンガスが8〜9割減ったというデータがあるそうです。これは面白いなと思いました。

ーーそんなに減るんですね。

富本:僕らはコンブを持っているので、同じ取り組みができないかいろいろ探しているのですが、なかなか共感を得られなくて。。でも最近やっと手を挙げてくれたところがありました。面白い結果が出るんじゃないかと思っています。結果によっては豚や鶏、羊などの家畜に広げていけたらと思っています。

ーーコンブを餌にすることでさらに味も良くなった、という話になると最高ですね。

富本:うま味が凝縮されて肉質が向上したという結果まで得られたら、本当に面白い取り組みになるんじゃないかなと思います。

ーー最後に今後取り組んでいきたい新しいことがあれば教えてください。

富本

コンブの養殖場所を増やして磯焼けを解消したいとか、利活用の幅を広げたいなどいろんな想いがありますが、やらなきゃいけないと思っていることは、水産と福祉を掛け合わせた新しい“水福連携”ですね。企業の障害者雇用率が引き上げられている現状があり、高齢出産などの影響もあって、障害を持って生まれてくる方の割合が増えていて、日本社会全体で対応しなければいけません。

障害を持つ子供の親御さんは毎日が不安だそうです。ご自身が生きているうちは面倒を見れても、年齢的に考えても先に亡くなってしまうと仮定した場合に、そこをコンブで解決できないかを考えていました。農業は農福連携という農業と福祉の連携が進んでいます。その観点から、コンブを乾燥する作業は軽作業なので、今年収穫したコンブの乾燥作業を小田原の障害者施設さんに委託しながら、水福連携ができないか模索しています。

原 健輔 anow編集部 エディター/リサーチャー

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