「持続可能」から「積極的再生」へのシフト

一般社団法人ワンジェネレーション/REGENEKO 共同代表 久保田 あや 氏

南部 彩子

一橋大学社会学部卒、日本IBMからキャリアをスタートし、大企業での営業職、マーケコンサル、ベンチャーでの新規事業開発、NPOでのソーシャルイノベーション研究、福祉ベンチャーでの経営企画と、様々な業界と組織を経験。「誰もがその人らしさを発揮し、お互いの個性を祝福し合うダイバーシティ」がライフテーマ。2022年3月、スタイリングサービスのリワードローブ株式会社を友人と設立。占星術を使ったライフパーパスコーチングのコーチでもある。娘1人、子育てに奮闘するシングルマザー。


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「Regeneration of LIFE 人・社会・地球のウェルビーイングをともに創る」を掲げ、気候危機の解決に取り組む一般社団法人ワンジェネレーション。
代表理事として活動をリードするのは、幼少期から生物や環境に興味を持ち、「この課題と共に生きてきた」と表現しても過言ではない久保田あや氏だ。

昨年6月から8月までの3カ月間は、北半球の夏としては観測史上最も暑く、EUの気象情報機関コペルニクス気候変動サービスの報告書によると、1991年から2020年にかけての平均気温を0.66℃、これまでの最高記録を0.29℃も上回った。

最も暑い夏となった2023年を経て、久保田氏は何を見ているのだろうか。

PROFILE

久保田 あや 一般社団法人ワンジェネレーション/RegeneKO 共同代表

幼少期より、植物と親しみ、有用微生物を応用した環境浄化技術の実践、指導を海外十数カ国にて行う。一方で心理学など人の内面の構造を探究しながら、子育てをきっかけにオルタナティブスクールを沖縄と八ヶ岳で創設。 2018年気候危機を肌で感じ、自然の中での暮らしや、森の保育などで生命の営みに深く触れ、活動をシフト。環境本「ドローダウン」と「リジェネレーション」の出版企画及び協力プロジェクトを行う。地域では、子育て仲間と台所からの地球再生を目指し、活動中。山梨県在住。四児の母。

地球再生活動の鍵は、人が人の可能性にチャレンジすること

久保田氏が代表理事を務める一般社団法人ワンジェネレーションの活動は、気候危機に関する書籍の出版、教育プログラムの作成、解決策の包括的リストの作成と、多岐にわたる。
今、気候危機に対する取り組みとして「持続可能」のさらに先をめざしているという。

久保田:これまで、サステイナブル、持続可能ってずっと言われていたと思うのですが、それじゃもう足りないよねっていうところまで地球温暖化は、気象パターンの変化を起こしています。積極的に人が、人の可能性にチャレンジをして、システムやコミュニティ、生態系といったありとあらゆるものを再生していかないと取り返しがつかなくなってしまうというのが今の状況です。私は、人が生命本来のあり方として、どうあることがいいのかをずっと探求していて、団体としても、個人としても、地球再生活動をやっています。

エコやサステナブルという言葉は我々の生活において日常的に聞かれるようになり、この文字があれば「地球に良いこと」という安心感さえある。しかし、もう「持続可能」では足りないという状況だと久保田氏はいう。積極的再生のために具体的には人は何ができるのだろうか。鍵となるのは「地球温暖化を逆転する ドローダウン」と「気候危機を今の世代で終わらせる リジェネレーション(再生)」だ。

久保田:具体的に何をするか、そこが重要ですよね。
今から5、6年ほど前、西日本で洪水があったり、大きな土砂災害があったり、災害の多い年がありました。数十年前から地球温暖化がまずいということを専門家は知っていて、私も学生時代から知っていました。でもこの災害の様子を見て、改めて、全然良くなってないなって、このままじゃ本当に私たちの子どもたち、次世代の人たちは、大変な世界を生きることになると大きな危機感を感じたんです。そんな中で、「地球温暖化を逆転する100の方法 ドローダウン」という本に出会いました。

ドローダウンとは、「大気中の温室効果ガスの濃度がピークに達し、前年比でマイナスに転じる時点」を指す。プロジェクト・ドローダウンは、米国の環境活動家で起業家のポール・ホーケン氏が、すぐにでも実行に移せる最も効果的な解決策を仮定し、それが実行された場合のインパクト、実行に必要な費用を明らかにするために始めたもので、100の確実な解決策を特定、評価、モデル化している。
久保田氏の所属するワンジェネレーションは、日本語版を企画、出版協力し、2020年に日本語版が山と渓谷社より出版された。その後、ドローダウンの続編である「気候危機を今の世代で終わらせる〜リジェネレーション(再生)」の出版企画協力も行なっている。

久保田:これのすごいところは、できることが100個もあって、これらをやれば解決できるって言い切っていることです。
温暖化対策と聞くと、電気、石油、石炭利用を減らすことだと思っていませんか?確かにそれらも重要ですが、この100のリストは面白くて、「食料廃棄を止めること」が3位に入っていたり、「女子の教育」というのが6位に入っていたりします。
これらの本に書かれた解決策は多様で、例えば、「ビーバー」というのもあります。ビーバーはキーストーン種といって、生態系の中で要になる種のことです。ビーバーがいる川と、いない川では、その他の生物の多様性が変わってくる。なので、もともとビーバーがいた川にはビーバーを再導入すると、豊かな生態系が戻ってくる。このように生命を中心とした領域のことが書かれています。

これらが良いのは、「未来に対して人間には確実にできることがある」と教えてくれるところです。
今の若い人たちが希望を持って生きられるような社会になってほしいなと思ったときに、私たちにはまだこれからできることがあるのです。 

そんな思いがまた1つの形になって表れたのが、2024年元旦にリリースされた「Nexus JP βVer. -私たちの世代で気候危機を終わらせる 生命の再生 解決策リスト-」だ。気候危機を前に立ちすくむすべての人の「何ができるか」に答えるもので、包括的で具体的な解決策を分かち合う場である。6つの枠組みと12の問いで整理された解決策は、運営からのみ提供されるのではなく、サイトを見た人や団体からの情報提供も積極的に受け、みんなで作る「私たちのリスト」として育てられていくそうだ。
生命への信頼と尊敬を中心に置き、決断し、行動するためのリスト。温かく力強い取り組みに未来への希望を感じた。

「自然が友達」だった子ども時代に環境へ関心を持つ

久保田氏の持つ気候危機解決に対する情熱は、幼少期から徐々に育まれたものだという。海のそばで育ち、自然の中にいることが心地よく感じる子どもだったそうだ。

久保田:小さい頃は神奈川県の海のそばに住んでいました。
毎日、海岸を歩いたり、夏には海水浴に行ったり、ずっと自然の中で過ごしていて、「私も植物になりたいな」と思うような子どもでした。自然が友達だったんです。
家の中でも、母が添加物を気にして自然食品を使っていたこともあり、人工的なものに対して敏感だったと思います。
ある日突然、近所にあった原っぱで工事が始まって、そこがどんどん壊されていくのを見て、「なんで人間はそこにいる生き物を簡単に殺すことができるんだろう」と思って胸が痛くなったことを覚えています。

そして高校生のときに読んだ本に、世界中をカヌーで旅している野田知佑さんの話があって、「日本の河川だけコンクリートで固められて下流が死んでいく」と書かれていました。それは嫌だなと思ったし、常に自分の頭には生物とか、地球のことがあって、大学進学にあたり、環境問題を専攻しました。

久保田氏は「なぜ人間は生き物を簡単に殺し、住処を奪ってしまうのか」というシンプルで深い問いを通して、幼い頃から一貫して「命」というものと向き合ってきた。そこには、人間の命を「自然にあるすべての命のうちの一つ」と捉える人間観が表れている。

久保田:ドローダウンの話で名前が出たポール・ホーケン氏は、「命は再生するんだ」と言います。本当にそうだなと思います。
命が生まれて、死んで、次の命に移り変わっていくというのが生命の原理です。人間はこれに抗い、死に対して抵抗していると言えるんじゃないでしょうか。死に対する大きな恐れを持っているがために、死なないように、死なないように、手を尽くそうとする。
全ての命は、本当は、森のように調和しているはずなのに、なぜ人間だけがこんなことになっているんだろうという疑問がずっとありました。

団体で掲げている「12の問い」というものがあり、私たちはそれを活動の指針としています。例えば、「その行動は、多くの生命を生み出すのか、それとも減らすのか」、「その行動は、搾取的なのか、それとも再生的なのか」などです。
これに照らし合わせると、ほとんどの人間活動が命に適ってないんです。
もしも、私がイルカやクジラ、ウミガメのお母さんだったら、激怒するだろうなということが海ではたくさん起こっていて、「ふざけんな人間」みたいに思うこともあります。自分がそのシステムの一部であることに嫌悪感を持つことすらあります。でもそれでは嫌だから、環境活動をものすごく頑張るか、自分がそのシステムの一部であることや、課題の大きさにあまりにも無力すぎることに、嫌になって鬱になるか、そのどちらかの反復横とびをずっとしてきました。

人間のあり方に対する疑問や憤りを感じながら、何ができるか問い続け、活動し続けてきた久保田氏。そこまでの思いの根底には「平和への願い」があるという。

久保田:そこに何があったかというと、根底にある願いとしては、全ての生命が本当に調和的に生きて、世界が平和であること、それを願い続けてきたんだと思います。
極端なこと言うと、人間もサメに食われて死んだり、熊に食われて死んだり、そういう自然の中で死んでいけばいいのになと思うことがあって、人間だけが偉くて特別なのではなく、本当に一つの種として生命の輪の中で生きて死ぬことができたらと思います。
植物も、虫も、菌も、全部が一体になっていて、集合体として土があって、生物と自然の境がないような状態に人間もいられたらいいと感覚的には感じています。

環境問題の解決には人間の意識のシフトが必要

環境問題は学校教育でも扱われ、関連ニュースはあらゆるメディアに流れ、行政も民間も様々な団体が活動している。「環境問題の解決が重要だ」と知らない人はいないだろう。
それなのになぜ、環境問題は解決されないのか。
幼少期からずっと環境問題と向き合って来た久保田氏は、環境問題の現状をどう見ているのだろうか。環境問題は解決に向かっているといえるのだろうか。

久保田:環境問題は、1960年代から公害という形で認識されており一向に終わっていません。 様々な変化があったとはいえ、根本的には何も解決してないと思っています。川もコンクリートで塗り固められて、ダムもどんどん作られて、気温もずっと上昇しています。
これはどういうことなのか。
突き詰めて考えると、人の意識が本当に根本からシフトしないと、この問題は終わらないのではないか、という仮説を持っています。

例えば、人が何か物を買うとき、それを買うという行為によって満たしたいものがあるわけですよね。便利さを得たいとか、買い物の楽しさを得たいとか、持っていることで人から承認されたいとか、いろいろあると思います。
何を満たしたくて買うのか、その満たしたいものに自覚的になるかどうか、それによって購買行動は変わると思います。自分が何を満たしたいのか無自覚なままでは、ただただ、購買行動が加速してしまいます。

買うという行為について考えることや、環境問題について考えることが重要だとしても、あまり自分事には捉えられないという人は多いのではないだろうか。そこに目を向けられないのは、ただ関心がないからではなく、「なるべくそれを見たくない、目を逸らしたい」という心理があるからだという。

久保田:現代は大量絶滅の時代と言われ、その原因は人間の経済活動であることは明らかです。一定の価値観のもとでは豊かさが増しているのかもしれませんが、地球環境を中心に見れば、グローバルサウス、つまり資源のある安い国から低価格で持ってきて、グローバルノースで儲けに使うという搾取的なシステムになってしまっています。
搾取的なシステムに自分が加担していることを自覚するのは、嫌なことです。自分の幸せのために生きることが、他の命を絶滅に追いやろうとしている、それに向き合うのはかなり辛いことです。
それで、「もう人間は最悪だ!」って絶望したくなってしまうことも多々あります。私自身も、それを何度も何度も繰り返してきました。
でも、もうこの感覚と一緒にいるしかない、この嫌な気持ちから目を背けず、認めるしかないんだと受け入れたとき、ここから自分にとって大切なことが教えられてくるんだと理解できるようになりました。それによって、この気持ち悪さと一緒にいられるようになってきました。
なぜ嫌な気持ちになるのか、気持ち悪いと感じるのか。それは、今の状態が自分の願いに反するからです。
気持ち悪さの奥にある私の願いは、「すべての生命が本当に調和的に生きて、世界が平和であること」。この願いに繋がり続けるしかないなと思っているのです。それは、結果として、そうなる状態になることにこだわっているのではなくて、ただ自分の願いに「気づいている」状態なんです。

気候危機のように長期的で壮大な問題を直視したとき、途方に暮れたり、自分たちの無力さを嘆いたり、打ちひしがれることの方が多いのではないだろうか。その中で、自分にある本当の願いに繫がり続けるためには、何が必要なのだろうか。

久保田:解決できないことや、うまくいかないことへの憤りが募って、絶望が勝ってしまうこともあります。自分で手に負えなくなったら、人に話を訊いてもらうようにしています。
「聞いて、もうほんとに気持ち悪いんだけど」みたいな感じです。訊いてもらうってすごい力だと思います。
自分の奥にある願いに触れようとすると痛みに触れることになってしまうから、切り離したくなってしまうけど、その痛みと共にいてもいい、と感じられたら、願いの真ん中に立っているような、不思議な感覚になります。ただそこにいるだけで何かが湧き上がってきたり、自分の在り方がすっと変わってくるようなことがあると思っています。なんかもう常に、自己矛盾を抱えながら生きるしかない。
そして痛みこそが一番のメッセージなんですよね、そこに本当に自分が願うことがある、だからその痛みを切らなくていいし、あるものはあるとしていいし、安心してその痛みと一緒にいられるようありたいと思います。

人間の可能性を信じる

「すべての生命が調和的で世界が平和であること」
この願いに向かい、ひたむきに、それと同時に人間らしく、着実に歩みを進める久保田氏。ご自身をシフトさせたのは「人間の可能性への気づき」だという。

久保田:これまで何度も絶望したり、人間であることが嫌だと思ったり、そんなことを繰り返していたときに、ある人から、「人間には可能性がある、こんなにも可能性を持ってるのは人間だけだ」と言われたんです。
そうか、とストンと腑に落ちました。
人間には手もあるし、脳もあるから、関わりようによっては、生態系の真の要として、生命が増える方向に力を使うことができるし、実際にそうなった事例もたくさんあります。
今の地球上には、肉食動物、草食動物、分解者までいて、生命の輪があって、その循環をもっともっと太くすることができるのも人間なんだと気づかされました。
ここまで壊せたんだから、これから再生することもできるのではないか、生命のシステムの再生者として人間がいるということに、すごく可能性を感じています。

再生者として在れる可能性に目を向けると、人間だけが授かった能力、思考や感情、手、言語化していくこと、高度な生命だからこそできることが活きていきます。
人間が地球に存在しているからには、やっぱりなにか存在理由みたいなのがあって、だから形を成してここにいるんだと思います。
すべての生命は、それぞれ何か理由があってこの世界に生まれてきていると思っていて、 ポール・ホーケンも書籍の中で同じように言っているんです。
だとするならば、「これをやりたい」と思って生まれてきた意思がそれであり、人間の意思が可能性だと思えたことは自分にとって大きかったです。

それに最近の変化として、前は「人間も熊に食われたらいい」なんていうと、周囲から理解不能だと言われていたのですが、最近、生物としての人間の感覚について、「それなんとなく分かるよ」と言ってくれる人が増えてきたんです。私一人が持っている感覚ではなくて、他の人の中にもあるし、生き物の中にある感覚なんだと思えました。
「なんだ、私は一人じゃなかった、仲間がいた」と思ったし、仲間がすごく増えてきた感じがします。
それは純粋に、大きな喜びです。
私はずっと「どうせ分かってもらえない」という思いがあって、いつもそこに帰結してしまっていたから、自分だけじゃない、仲間がいると感じられることがとても嬉しいです。

訊き合い、それぞれにある願いと繫がりながら、すべての命が調和的に生きることを目指していきたいですね。

久保田氏は、ワンジェネレーションで気候危機に関する意識変革へ取り組む傍ら、今年から「Regeneration from Kitchen Organization」という団体を立ち上げた。「台所からの地球再生」をコンセプトに、コンポスト活用や、再生型のくらしづくりをしていくなど生活の中でできる様々な取り組みを地域の人たちと実践するコミュニティだ。
久保田氏の語る幼少期から現在へのプロセスは、「人間が人間をどう捉えるか」という人間観の変遷とリンクしている。
「人間は自然を破壊する悪だ」という懲罰的な見方から、「人間は自然の一部である」という全体性を重視する見方へシフトしたこと、そして、人間は自分たちが持つ知性を活かし、積極的再生を地球にもたらせるということへの気付き。この2つが久保田氏が人々の意識変革、そしてより具体的な地球再生への実践に取り組む原動力だろう。

私たち一人ひとりも、地球と自身の関わり方の意識をシフトし、すぐにでも始められる小さな実践を積み上げていくことが、気候危機、そして全ての地球環境問題を解決する糸口になるのではないだろうか。

南部 彩子

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