【後編】「つながる」からイノベーションを実現する大企業の共創の場

株式会社日建設計企画開発部門イノベーションデザインセンター 横山 明日香 氏

anow編集部


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特集2:異質コラボレーション -異次元の接触が生み出す新たな可能性-

これまでの特集を通して見えてきた「共創」というSOCIAL QUANTUMの特徴。今回の特集では、「共創」の中でも特に彼ら・彼女らだからこそ起こった、異質性の高いコラボレーションに着目し、その活動の意義、またコラボレーションによってどんな新しい社会的価値が生み出されているのかを探る。

2023年4月10日、日建設計東京オフィス3階に、都市課題を解決し、未来に実装するための共創の場として「PYNT(ピント)」が開設された。PYNTは、日建設計が社内だけでなく他企業や大学、行政、NPOといった社外の共創パートナーを巻き込んだオープンイノベーションにより、複雑な社会課題の解決をめざすインフラとなる施設だ。ワークスペースやイベントや展示ができるスペースからなり、日建グループ社員とゲストが共創や新しいアイディアを考えるために活用される。

日建設計は、PLANNERS、ARCHITECTS、ENGINEERSの3つの専門職能を有し、建築の設計監理、都市デザインおよびそれらに関連する調査・企画・コンサルティングを行うプロフェッショナル・サービス・ファームだ。業界最大手の大企業がなぜ、外とのコラボレーションを志向するのか。

前半に引き続き、PYNTの企画・運営を担うイノベーションデザインセンターの横山氏に、日建設計が共創による社会課題解決を志向する理由とイノベーションデザインセンターの役割、PYNTの開設に至る経緯と実績、今後について伺った。

PROFILE

横山 明日香 株式会社日建設計 企画開発部門イノベーションデザインセンター

1992年、大阪市阿倍野区生まれ。京都工芸繊維大学・同大学院の仲隆介研究室にて、ワークプレイスについて研究。2017年に日建設計に入社し、2021年から現職。現在は共創スペース"PYNT"の企画運営に携わりながら、社内外の共創活動やイノベーション創出の支援に取り組む。

社内外をつなぎ、共創をデザインする

横山氏が所属するイノベーションデザインセンターは、「社会に変化をもたらし、より良い価値を提供するため、社内外をつなぎ、共創をデザインする」ことを活動方針に、「Cultivate」と「Co-creation」に取り組む組織だ。新たな社会価値創造のために、既存の事業領域に加え、都市インフラや社会システム、企画構想段階や運営段階などで、新領域サービスを展開する企画開発部門に属する。

イノベーションデザインセンターの活動方針 (出典:日建設計)

イノベーションデザインセンターは、①新規事業提案、②ウェビナーワークショップ、③外部共創プログラムへの参加、④情報発信/アーカイブ化、⑤ネットワーキング、の5つの活動を通して、社内の土壌を耕し、社外との出会いをつくり、コラボレーションを生み出すことでイノベーションの種を見つけることをめざしている。

横山:イノベーションデザインセンターの専業メンバーは私含めて3人だけなんです。私はもともとワークプレイス専門の部署にいました。大学でも働き方や働く場を学んでいたので配属されましたが、インテリアデザインなどの業務が多い部署だった。それよりも、実際にどうやったら共創が起きるのか、イノベーションが起きるのか、働き方の根本を考えられる部署を希望して、イノベーションデザインセンターに異動になりました。

業界最大手でも危機感

日建設計は前述した通り、業界最大手の設計会社である。そのような会社がなぜ共創の場を設け、社外パートナーを巻き込んだオープンイノベーションを志すのだろうか。

横山:日建設計は、中長期計画で「社会環境デザインプラットフォーム」になることを掲げています。現代社会において、多様化、複雑化した社会課題の解決は、一社単独でどうにかなるものではない。そのためには、これまで培ってきた技術やマネジメントの仕組みを組み合わせ、社内外の様々な立場や専門性を越えて繋がりながら、時代に呼応して新たなプロフェッショナルサービスの領域を広げる必要があると考えています。オープンイノベーションが起きるような場所をつくり、そのきっかけも同時に作りたい。日建設計として社外の人と共創していくことはもちろん、日建設計自体がプラットフォームとなって、そこで色んな人、組織が色々な形のオープンイノベーションを起こし、それが社会課題を解決していく活動に繋がれば良いと思っています。

都市の課題とは、暮らしに関わる「なんとかしないといけない」が、複雑で深刻化している課題だという。

横山:例えば、移動性の欠損、孤独、水道管の老朽化など、都市の課題は多岐にわたります。日建設計は新しい市場や顧客、そして新しい事業を切り開くことで新しいゾーンを開拓し、境界を超えた様々な関係者との共創をファシリテーションすることで、なんとかしないといけない、でも複雑で資金化が難しく、誰も手を付けられない都市の課題を解決し、新しい未来を社会に実装したいと考えています。

社会環境デザインプラットフォームになるために (出典:日建設計)

共創によってつくられた共創のための場

前編で紹介したCo-creation & Event Spaces「PYNT」を含む「NIKKEN COLLECTIVE FLOOR」は、そのオープンプラットフォームが実装される場だ。

横山:社会課題解決に向けた「社会環境デザインプラットフォーム」を支える場とはどうあるべきか。そして多くのオフィスを手掛ける設計会社として、どこでも働けるようになった今の時代に働き方とオフィスの意味を再考し、その意味を実現するための「来たくなるオフィス」とはどういうものか。今回この2点が起点となり、「NIKKEN COLLECTIVE FLOOR」としてオフィスがリ・デザインされました。

オフィスのリ・デザイン方針 (出典:日建設計)

横山:私が所属するイノベーションデザインセンターは、社会に変化をもたらし、より良い価値を提供するため、社内外をつなぎ、共創をデザインする組織です。組織のミッション上、社外の共創の場に行くことも多いです。今回のプロジェクトでは、上記2点のコンセプトが先に決められ、設計チームによって線が引かれた後に、実際の場の機能や運営方針を考えていくために、社内で一番詳しい人材として私たちに声が掛かりました。

コンセプトを考えたチーム、設計をしたチームももちろんイメージを持っていたものの、共創の場の実態については、知らないこともありました。ワークショップするための場所、カフェ、イベントスペースなどと、空間としての機能は考えられているものの、何かピンとこない感じ。そこで私たちは、このフロアに関わるチーム、役員と共に、すでに成功している共創の場をいくつか見学させてもらいました。そして、「共創のためにはちゃんと開かれた場をつくらなきゃいけない」というイメージを社内の共通認識として固め、より具体的な場所の用途を決めていきました。

イノベーションを起こすため、何か新しいことを始めるためには、「とりあえずやってみる」が大切だと言われることは往々にしてあるが、組織が大きくなれば大きくなるほど、「とりあえずやってみる」は良い意味でも悪い意味でも難しい。
そこを打開するために、実際にやりたいことをすでに実現している他者を「見させてもらう」というのは、非常に意味があるようだ。

横山:

実際に役員の人と共創の場を見て回る前は、セキュリティ面の理由で社外の人が入れるのは3階の階段側のワークショップスペースと展示スペースだけにしてほしいという話がありました。カフェや図書館、コワーキングゾーンは見えてるのに利用できない。
視認できるエリア内で空間的な隔たりがあるのって、社内外の人々が同じ立場で空間に存在するという共創の大前提を崩すことになります。そういった空間のあり方、またただの飲食スペースとしてではなく、アイスブレイクの場的なカフェの利用の仕方は、視察をしなければ分からなかったかもしれません。

Co-creation & Event Spaces「PYNT」 (出典:日建設計)

開設2か月で600人が来場

横山:4月10日の開設から2か月弱の5月末時点で、410社、約600人の方にPYNTへ訪れてもらっています。社員の来訪人数はカウントしていませんが、カフェ利用が1日約300杯あることから、社員も結構来てくれていることがわかります。
やはりまだ視察、見学の割合が多いですが、実際にPYNTをコワーキングスペース的に活用してくれている社内外のメンバーもおり、カフェでの会話やイベントなどを通して、メンバー同士の交流もあります。
今後は、まず5年間でテーマを持った10つのプロジェクトチームを生み出すことを目標に、年間のアクティブなメンバーを500人常に集め続け、彼らが持つアイディアや技術を交差させることのできるイベントや展示等を実施していきたいと考えています。

数字で見る「PYNT」 (出典:日建設計、2023年秋時点)

業界最大手であり、現業が傾いているわけでもない日建設計が共創をめざすのには、「社会環境デザインプラットフォーム」になるという大きな志があった。本社ビル直下に共創の場を設けたことからも、その本気度が伝わる。

前編の記事内で横山氏が述べていたように、今日、企業の目的が利益の追求から社会課題の解決へとシフトしている。また多くの企業が、社員をコントロールするのではなく、現業チャレンジャー、社内イノベーターとして自身で動く社員を支援するような組織体へと変容してきているように感じる。
そういった変化の中で、オープンイノベーション=共創=社内外のコラボレーションは、支持するものであると同時に、自然と起こるべきものなのだろう。

「PYNT」からどんなプロジェクトが生まれ、どんな都市の課題が解決されていくのか。anowでは今後もPYNTの活動に注目していきたい。

anow編集部

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