「ちゃばこ」で世代・地域をつなぎお茶文化の活性化に取り組む

株式会社ショータイム 代表取締役 森川 翔太 氏

藤井 貴大 anow編集部 エディター/リサーチャー


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タバコ風のパッケージが目を引くのは、「世の中を、茶化そう。」をコンセプトとする粉末スティック茶商品「Chabacco(以下、ちゃばこ)」。同商品はSNSでも話題になるなど、ユニークかつウィットに富んだ「茶化し方」で若者を中心に好評を集めている。
ちゃばこの企画・販売をしている株式会社ショータイムでは、単に製品を企画・販売するだけでなく、日本茶の普及と業界活性化に向けた地域や世代をつなぐ取り組みもしている。ちゃばこ誕生の経緯や、日本茶業界、地域活性化への思いなどを代表取締役の森川翔太氏に伺った。

PROFILE

森川 翔太 株式会社ショータイム 代表取締役

静岡県袋井市出身。専門学校卒業後、東京で10年間広告関係の仕事に携わる。アメリカ滞在時にお土産として持参した日本のお茶がとても喜ばれた経験と、日本でもっとお茶業界を活性化させたいという思いからお茶業界へ飛び込む。2015年、「地方と世界をつなぎ、地方を未来へつなぐ」を理念にショータイムを設立し、リーフ茶の商品開発や日本茶の普及活動に取り組んでいる。

タバコ風のデザインをしている「ちゃばこ」
(出典:ショータイム)

若い人の「地元のお土産」をめざしてちゃばこを開発

森川氏は、生まれ育った地元こそ静岡だったものの、東京で広告関係の仕事に従事するなど、日本茶業界とは無縁の生活を過ごしていた。そんな中で日本茶業界に飛び込むきっかけとなったのは、出張で訪れた海外での体験だ。

森川:渡米したのが海外で日本茶ブームがくる少し前だったのですが、お土産として日本茶を海外に持っていってみたところ非常に喜んでもらえたし、日本茶が救ってくれたこともありました。当時は民泊サービスを利用していたのですが、「スペシャルな日本茶を持ったナイスガイだ」という評価をつけてもらえて。英語を喋れず断られたりもしていた中で「日本茶を持っているなら泊まって大丈夫だ」ということもありました。

”自分の生まれ育った町で当たり前のようにあったものは、海外の人からするとこんなにも喜んでもらえるものなんだ”と思って嬉しかったですね。

海外でのポジティブな体験の一方で、国内の日本茶事情に目を向けると地元の生産者さんから聞いた実態とのギャップに衝撃を受ける。そして、“このギャップを解消したい、地元の人が地元のお茶を自信をもって紹介できる製品を作りたい”という思いから、ちゃばこの開発へと歩みを進めていく。

森川:生産者の方から「おいしいお茶を作っても飲んでくれる人がいなくて困っている」という話を聞いて。携わっている人もどんどん減って高齢化も進んでいるなど、状況が想像以上に悪かったんです。それは僕にとっては想定外で、外から原因が何かを考えても詳細はわからないので、だったらお茶業界の内側に入ってみようと。

当初は地元ありきというよりは、海外への日本茶の輸出を考えていました。でも、僕自身がお土産として故郷のお茶を海外に持っていったことでその魅力を再発見した経緯もあり、”自分が既存の日本茶商品を海外に売り込むよりも、茶産地の地元の方々、とくに今後国内外に進出する機会の多い若い世代の人たちが「コレをお土産に持っていきたい」と思ってくださり、結果としてその魅力を再発見できるような商品を開発するほうが、お茶業界の根本的な課題解決に繋がるのでは”と考え、「ちゃばこ」の開発に至りました。

ちゃばこは高いデザイン性やウィットに富んだパッケージ、廃棄予定のタバコ自動販売機を改修した「ちゃばこ自動販売機」などがSNSでもバズり、若い世代を中心に注目が集まる。

森川:美味しいことはもちろん大前提ですが、一方でお茶はお酒と同じように嗜好品でもあるので、例えば、「実はこれお茶なんだよね。ちょっと一服しようよ」というような、”お茶を通じて生まれる楽しい時間やコミュニケーションへの期待値”も、商品開発における重要なポイントだと思ったんです。

タバコとの「一服」「喫茶」という語呂の相性や、箱の形状による持ち運び性能だけ採用しても良かったのですが、それならパッケージの要素ももっと近づけていこうと。タバコに記載されている喫煙に対する警告文もおもしろおかしく、ポジティブなセンテンスに変えてしまえばよりおもしろいかなって。

「ちゃばこ自動販売機」も、自動販売機によるタバコらしさと、実際はお茶というギャップを楽しんでもらえたらと思って作ってみました。催事に出したら好評だったので良かったですね。

「世の中を、茶化そう」がちゃばこのコンセプト
(出典:ショータイム)

日本茶へのポジティブな印象や興味をもてるステップを作る

お茶業界に参入を決めた際には、地元の茶業関係者から「こんなに状況が悪いお茶業界にわざわざ来ない方がいい、若い人にリーフのお茶が売れるわけがない」と言われたこともあったそうだ。
しかし、森川氏は”そんな状況だからこそ”という思いが強くなったという。

森川:ペットボトルではなくリーフのお茶商品に目を向けると、若い人に興味をもってもらえていない、参画してもらえない状態がずっと続いてしまっており、このままお客様の代変わりが進まなければ、生産者さんの高齢化にも歯止めがかからず、未来に日本茶文化を継承できなくなってしまうのではないか?という危機感を持ちました。

それを阻止するためにも、急須ありきのプレゼンテーション一辺倒ではなく、もう少しこちらから興味を持ってもらうための工夫やステップを用意するべきではと思っていました。

ちゃばこは若いお客様を見据えた商品ですが、そこに勝算があったというよりも、若い人にリーフのお茶にも興味を持っていただきたくきっかけをなんとかして創出したい、という思いのほうが当初は強かったですね。

ちゃばこを若い人が日本茶に興味を持ってもらうきっかけにしたいと考えていた森川氏は、地元である静岡の掛川で最初のちゃばこづくりを開始する。静岡には本社のほかに、「ちゃばこ直売所」を富士宮市に設置しており、就労支援施設の方が施設外の作業として製造と販売に携わっている。

森川:ちゃばこを作ろうとした際に、最初のちゃばこ製品にもつながる掛川の生産者さんたちは面白いといってくださって。
日本茶を買う際のロットは大体きまっているのですが、「まずはチャレンジしてみて、何キロでもいいから」と言っていただけるなど、非常に協力的だった思い出ばかりです。

ちゃばこ直売所を通じた就労支援では、自分が箱詰めしたちゃばこを購入いただく喜びを通じて、もっと頑張ろうというモチベーションややりがいを就労支援施設の利用者さんたちに感じていただけています。
そのような体験を通じて、地元のお茶に対するいい思い出や自信がひとりでも多くの人に形成されることは、お茶業界にとっても確実にプラスになります。

茶業に携わっているか否かを問わず、「自分たちの街はお茶の産地である」という地元の方々の誇りや意識も、未来に継承していくべき重要な地域の茶文化のひとつだと思っています。

ちゃばこ直売所で作業する様子
(出典:ショータイム)

生産者同士が切磋琢磨するネットワークの懸け橋に

地元である静岡県産のお茶を原料としたちゃばこの拡販を進めるなか、「フラン茶イズ」というちゃばこ製品のフランチャイズ事業も開始する。
これまでの日本茶業界では、一つの茶産地で生まれたブランド(製品)がライバル関係にある別産地の茶葉を使って別産地にも展開する取り組みはなかなかみられなかった。この取り組みを通じて、地元住民のお茶に対する意識やこだわりを実感することもあったという。

森川:ともにちゃばこ事業を展開しているフランチャイジーが埼玉県産の茶葉を使った商品の販売を開始した時、「やっと自分たちのお茶を自信を持って人に渡せる商品が出来た」と埼玉の年配のお客様が言ってくださったそうです。

地元の人が買ってくれる割合も高くて、すごく応援してくれているんです。『自分たちの街はやっぱりお茶の街だよね』という思いを持っている。

さまざまな茶産地への展開を通じて、「産地が違えど、地元のお茶に対する地元の人たちの思いやこだわりは変わらないんだな」と実感しましたね。

ちゃばこ自動販売機の中で静岡県と九州地方のお茶が一堂に会する
(出典:ショータイム)

生産者の中では特に若い世代を中心にちゃばこを介してつながり、お互いに切磋琢磨して高めあっていこうという意識が盛り上がっているそうだ。

森川:日本茶の価格は年々低下傾向にあり、利益をどうやって確保しようかと考えてしまいがちですが、本来は「美味しいものを作るぞ」というのがモチベーションであるべきだと思うんです。そうじゃないと、これからお茶を作ろうする人が出てこないと思うので。

生産者さんの考え方も世代間で変わっていて、若い人たちは他の地域の方とでも協力する意識をもっていますね。お互いが独立してお茶を作っている中でアイデアを出しあって、高め合える関係を築かれています。

例えば、生産者さんと弊社の間で使用するお茶の味について一度合意をした後でも、「もっと美味しく作れそうだから、もう一度試作させて欲しい」と言っていただけることもあったりと、他産地のちゃばこを意識しているからこそ美味しいお茶を作ろうという魂にも火が付いていると思いますし、産地や種類も違う仲間が増えれば増えるほど、産地間の交流や切磋琢磨する動きも活発になっていくと思っています。

日本茶の産地としてメジャーかマイナーかというところではなくて、自信を持ってお茶を作っている生産者さんの思いがあれば、どんどん増やしていきたいですね。ポジティブな方のやるぞっていうネットワークって強いじゃないですか。

『九州全県のちゃばこが揃ったので、ちゃばこ会みたいなのをみんなでやりましょう』という話が生産者さんから出たりとか、そういう形で生産者さん同士がつながって仲間が増えていくっていうのもいいですよね。

最近では、茶産地としては一般的にはあまり知られていない産地からも、ちゃばこを作りたいという声をいただくようになってきていて、参入したときよりも、確実にいろいろなことが、いろいろな場所で起きていると実感しています。

話しを伺う中で、ちゃばこが単に高いデザイン性を売りにしているだけではなく、その裏側には森川氏のお茶文化に対する深いリスペクトと強い危機感を感じました。
「地道にやってきただけですよ」と謙遜される森川氏ですが、課題に対して真摯に向き合ってきたからこそ、世代や地域を超えて、多くの人を巻き込むことにつながっているのでしょう。
お洒落なパッケージを見かけられた際には、ご家族・友人・同僚の方など周りの人をお誘いのうえ、楽しい時間を共有されることをお勧めします。

藤井 貴大 anow編集部 エディター/リサーチャー

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