日本の都市の多くが、少子高齢化、人材の流出、それに伴う地域経済の縮小といった課題を抱えている。2022年の住民基本台帳に基づく人口動態調査では、東京都が26年ぶりの人口減となった。そのような状況の中で、成長を遂げる都市がある。それが福岡県福岡市だ。
福岡市の人口は、ここ10年でおよそ14万人増加し、2023年1月時点で約163万人を記録、今後も増加すると推計されている。経済規模についても、2009年には市内総生産(名目)6兆7504億円だったのが、2019年度7兆7911億円と拡大傾向にある。
福岡市は、2012年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言して以来、「スタートアップ支援」に注力し、地域の活性化、ひいては福岡市から世界を変えるようなイノベーション創出を志している。
そこで今回、福岡市がスタートアップ支援の取組を推進、多くの社会の担い手=SOCIAL QUANTUMSを支援する理由、またその支援内容と成果について、福岡市経済観光文化局創業・立地推進部創業支援課の紫垣和宏氏に伺った。
特集0:SOCIAL QUANTUMS make another now to happen. 社会の小さな担い手が、新たな『当たり前』を創り出す
今回の特集では、anowと同じく社会を担うために奮闘する“個”を支援する人や組織、コミュニティ、また彼らの存在の意義や定義を考える研究者へのインタビューを通じて、SOCIAL QUANTUMSのあり方や、彼らが活躍していくための条件・要素を深掘り、anowが描く”個と社会の理想的な姿”の糸口を探る。
PROFILE
紫垣 和宏
福岡市経済観光文化局 創業・立地推進部創業支援課
創業支援課長
2003年福岡市役所に入庁。財政局財政調整課、総務企画局企画調整部等を経て、2022年4月から現職。福岡から世界が期待するスタートアップ企業の輩出に向け、スタートアップ支援に取り組む。
スタートアップ都市宣言
福岡市は2012年9月、雇用創出や経済活性化を目的に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言。起業家やエンジニア等と同じ目線で「スタートアップ支援」に注力することを市として表明した。
福岡市はその後、国家戦略特区であることをバックボーンに、同年の「スタートアップカフェ」の開設など、スピード感を持ってスタートアップ支援施策を拡充していった。
スタートアップエコノミーの基点「Fukuoka Growth Next」
福岡市では、2012年の「スタートアップ都市ふくおか」宣言をStartup0(ゼロ)、2014年の国家戦略特区指定、スタートアップカフェ開設をStartup1.0と定義している。その次の段階であるStartup2.0への転機は、市のスタートアップ支援拠点を集約した施設「Fukuoka Growth Next(以降、FGN)」を開設した2017年だ。
スタートアップに最適化する都市のあり方
FGN最大の特徴である独自システムは、行政による強力な支援と地元企業・ベンチャーキャピタル等の民間との連携からなる。運営は、福岡市と公募で集まった民間事業者3社からなる福岡市スタートアップ支援施設運営委員会が担当しており、また入居者支援パートナーやスポンサーとしても行政組織、地域内外の民間組織が多く関わっている。この体制が、行政にはない民間のノウハウやスピード感と行政でしか実行できない規制緩和等による一体的な支援、また創業前からレイターまで各ステージ一気通貫での支援の提供を可能にしている。
スタートアップ都市としての確立と更なる飛躍
2012年の「スタートアップ都市ふくおか」宣言以降、起業の数は格段に増えている。スタートアップカフェへの起業相談は2022年7月末までで累計17,734件、2021年単独では年間約3,000件となっており、カフェ開設以前と比較して年間相談件数は10倍に増加した。またスタートアップカフェを利用して起業した数は、2021年単独で約200社を超え、開設以来累計609社(2021年度末時点)となっている。
2020年には、一貫した官民協働による起業支援やスタートアップのコミュニティ形成が評価され、内閣府による「Beyond Limits. Unlock Our Potential. 世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」に係るスタートアップ・エコシステム拠点都市形成事業にて、「グローバル拠点都市」に選定された。グローバル拠点都市に選定されたのは、「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」、「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」、「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」、「福岡スタートアップ・コンソーシアム」の4つのコンソーシアムで、福岡市は全国唯一の単独自治体での選定となっている。
官民一体型のスタートアップ支援に注力することで多くのスタートアップとその支援者による豊かなエコシステムを築き上げた福岡市。次なるチャレンジとして、新規上場への支援や大学との共創で進める研究開発型スタートアップ支援、起業希望者への海外研修制度など、更なる政策の充実を進めているという。日本の地方行政によるスタートアップ支援のベストプラクティスとして、今後も注目していきたい。
原田 真希
anow編集部
エディター/リサーチャー
紫垣:福岡市は支店経済からの脱却を掲げ、スタートアップ支援に取り組んでいます。スタートアップ支援を通じて、リスクをとってチャレンジする人が尊敬される社会を目指しています。