沖縄からアジアへ~起業家が集うためのインフラ構築を目指す

株式会社LINK AND VISIBLE 代表取締役CEO / コザスタートアップ商店街 事務局長 豊里 健一郎 氏

原 健輔 anow編集部 エディター/リサーチャー


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2022年4月、沖縄本島中部に位置する沖縄市で商店街を活用した新たな取り組み、「コザスタートアップ商店街」が始まった。

コザスタートアップ商店街は、コワーキング、シェアオフィス、県外企業のサテライトオフィス、エンジニア向けのシェアハウスやワーケーション向けホテル、ソーシャルバーやアートギャラリーなど、多様な”場”で構成され、「世界にイノベーションを起こす挑戦者を生み出す商店街」を目指したプロジェクトだ。 その事務局長で株式会社Link and Visibleの代表取締役CEOでもある豊里健一郎氏に取材した。

PROFILE

豊里 健一郎 株式会社Link and Visible 代表取締役CEO / コザスタートアップ商店街 事務局長

沖縄県沖縄市生まれ。Startup Lab Lagoon、 Microsoft Base、Code Base、GeekHouse沖縄を運営するLink and Visibleを創業。沖縄とアジアが交差するスタートアップエコシステムの確立を目指す。 エンジニアの人材育成・DX・サービス開発、アジアを中心としたスタートアップのためのエコシステムの形成やコミュニティを運営。

なぜ”コザ”でプロジェクトをスタートさせたの

理由のひとつに「豊里氏の故郷だから」という点が挙げられるが、それだけではない。第二次大戦後、現在の嘉手納町と北谷町、沖縄市の3市町にまたがって、米国空軍の嘉手納基地(以下、米軍基地)が建設された。沖縄市は1974年にコザ市と美里村が合併してできた市であり、現在はコザ市は存在しないのだが、地元住民は今でも親しみを込めて”コザ”と呼ぶそうだ。

そんなコザは米軍基地が近いこともあり、米国の文化も根強い。1965年から本格的にベトナム戦争に介入したとされる米国。これから戦地に赴く兵士、戦場に戻るまでのつかの間の休息を取る兵士たちは癒しを求めてコザで派手にお金を使ったという。”一晩でドラム缶いっぱいのドルが貯まる”として、沖縄だけではなく日本本土やフィリピン人にインド人、中国人などの”よそ者”が多く集まった。沖縄文化とアメリカ文化、その他さまざまな国の文化が融合したチャンプルー文化が形成されたコザは、よそ者に寛容な街で、起業家マインドに通ずるものがある。

コザスタートアップ商店街にてイベント「KOZAROCKS」を開催した様子。

コザスタートアップ商店街:平日の昼間は起業家や外部から訪れた方がさまざまなシェアオフィス建物内で仕事や打合せをしている。新型コロナの影響で旅行者は減っているが、土日には多くの人で賑わっているという。写真は2022年7月に開催されたイベント「KOZAROCKS」の様子。

※KOZAROCKSとは:2022年7月にコザスタートアップ商店街が開催した、誰でも参加可能なカルチャーイベント。新しい文化を受け入れ、失敗や変化を恐れない”Rockstar”を生み続けたまちコザで日々挑戦する起業家たちは、かつての”Rockstar”のよう。自らの挑戦と成長のために夢を追いかける起業家たちとイノベーティブな未来を一緒に描き、挑戦の連鎖を生み出したいという想いから名付けられた。さまざまな歌、踊り、そしてスタートアップに関するトークセッションが繰り広げられた。

――”コザ”にフォーカスするきっかけはなんだったのでしょうか

豊里:本当に最初のきっかけはコザで商売をしていた母親の存在でした。私が高校生だった当時に沖縄県と中国の交換留学が持ち上がり、母親からの後押しで2002年から中国へ留学させてもらえました。高校卒業後は福建省にある大学を卒業し、そのまま中国で就職しました。日本通運のグループ会社で香港と中国大陸のIT部門に7年間務めた後、コザに戻ることになりました。

中国からコザに戻ったきっかけは、2017年にこの商店街でクラウドファンディングをしていた方がいて、地元だったこともあって応援したくなったことです。エンジニアが集まる「ギークハウス(現在はLink and Visibleが運営)」を作りたいというもので、一時帰国した際に商店街に完成したギークハウスやほかの施設を見て衝撃を受けまして、私もこの地で起業したいと思いすぐに帰国を決意しました。


豊里氏は起業当初からアジアを中心としたグローバルでの事業展開を目指していたが、実際に製品やサービスを開発して売り込んでいったが失敗も多かったという。

――現在の事業や活動に至る要因はなんだったのでしょうか

豊里:アジアと沖縄は距離的にはそれほど遠くないので、沖縄からでも日本本土やアジアとの仕事ができると思っていて、自信もありましたが、当初はなかなか上手くはいきませんでした。そもそも沖縄は立地や市場規模、資金集めや人材面でも首都圏などと比べれば不利な面があります。僕自身は中国語を話せますが、アジアとビジネスをするには言語の問題もあります。そこで沖縄の良さを生かしながら沖縄が不足している面を改善し、起業家が集まりやすい場所を作ろうと思いました。2019年から3年間、コザスタートアップ商店街の玄関となる「Startup Lab Lagoon(以下、ラグーン)」事業の代表を務めました。現在はラグーンや他のシェアオフィスの運営だけではなく、金融機関と連携したファンド組成の確立、行政に対するスタートアップ支援の促進、イベント活動や人材育成にも携わっています。

――コザに人が集まる理由は何だと思いますか

豊里:正直なところコザという場所は首都圏などと比べて価値が高いわけではないので、起業家に加え、学生や投資家にとって魅力的なコンテンツを多く用意することを心がけています。投資家を招いたスタートアップのピッチイベントを定期的に開催し、ほかにもマーケティングに関するイベントやDX、エンジニアの交流・採用イベントも開催していますし、最近では人材育成にも積極的に取り組んでいます。沖縄で育った学生はお金を稼ぐためには県外に出るしかないのですが、県外に出ても確実に稼げるわけではありません。そんな学生たちを救うべく学生向けのキャリアイベントも開催しています。こういったイベントを数多く開催することで沖縄内外の人と人の交流を増やしています。新たな出会いや新しい風も多く、私自身にも良い刺激になっています。

「Lagoon Koza」 (ラグーン コザ):コミュニティースペースやコワーキングスペース、トライアルキッチンなどもある。

沖縄からアジア全体の人材資本が交差するスタートアップのハブにしたい

2022年から「スタートアップエコシステム」を始動させた。豊里氏は沖縄全体のスタートアップを支えるのに必要なインフラを整備し、10年後の2032年を見据えて成長産業を生み出したいとしている。

――今後の活動はどういったものになるのでしょうか

豊里:スタートアップは成長産業を作るものですが、それを支援するコミュニティには、資本を得るための装置的な仕組みがポイントになると思います。資本が集まる場所として、活動を強化し、その結果として、沖縄県のIT産業をコストセンターではなく、プロフィットセンターにしたい。そのためには、沖縄県内のエンジニア人材も育てなければならないし、10年後を見据えても教育面は非常に重要です。また外から優秀な人材を獲得するためにもより住みやすい街にアップデートしていく予定です。

ーこれからの沖縄はインバウンドだけでなくアウトバウンドが重要だという

豊里:今の沖縄は、観光や飲食業など第三次産業に支えられています。観光業でおよそ7,000億円ありますが、旅行客の減少で大きな打撃を受けました。2位は情報通信でおよそ4,000億円の規模となります。しかし4,000億円の蓋を開けてみると、大手企業のコールセンター業務の受託などコストセンター型の事業が多いことがわかりました。現在はAIが発展し、有用なチャットボットも多くあります。この先10年後も変化がないままでは沖縄から情報通信産業がなくなってしまうのではないか。このような危機感から、日本だけでなく成長市場のアジアに直接打って出ていける製品やサービスを生み出す情報通信産業を作っていく必要があると思っています。

起業家の目線を広げたい、マインド醸成が課題に

コザスタートアップ商店街では2019年4月~2022年3月の間で240名(年間平均70名超)の起業家を排出してきた。イベント開催数は270回、入居事業者40社を超える。集まる方々の年齢層は20~30代が中心だという。女性や、10代の若年層、高齢層にも集まってもらうため「hanaわらび」という多世代向けの教育プログラムも実施している。外国人向けにはグローバルシェアオフィスとして、外国人起業家や日本進出を目指す海外企業を集積するシェアオフィス「HOPE」がある。全国から様々な人材が集まるシェアオフィスでハイエンドモデルのチェアやモニター、チーム用個室や会議室、配信ブースもある。 

起業家の排出数は全国と比べて多いが多産多死で廃業率も高いという。しかし1度の失敗で終わってはいけないと豊里氏は語る。

豊里:沖縄の中だけでビジネスをしようと努力しても、そもそものマーケットが小さいので、沖縄県内だけではなく外にも意識を向けてほしいと思っています。そういったマインドを持つ起業家をどれだけ排出できるかが今後の課題です。

私自身も、出会いによって大きく展望が開けたと思っています。中国留学に送り出してくれた母親、スタートアップコザの前身であるギークハウスの立ち上げメンバーにお会いした時も衝撃的でした。今後、特に投資家と起業家の出会いを充実させていきたいと考えていますが、これらを仲間としてサポートしてくださるISCOの方々やラグーンに入居してくれるIT企業の皆さんに常に刺激を受けています。

さまざまな文化が入り混じったコザだからこそ起業家を刺激する独特の雰囲気が漂う。新型コロナによって日本人の働き方も大きく変化したことで、必ずしも東京や大阪などの都市部に住居やオフィスを構える必要がなくなりつつある。これを機に郊外や地方に移住する人も増えているように感じる。起業家にとどまらず、自らの働きかた、働く目的を見つめなおし、アップデートしてみたいと考えた時、コザの風を感じに訪れてみてはいかがだろうか。

原 健輔 anow編集部 エディター/リサーチャー

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