組織づくりのプロが語る〜イノベーションと社会貢献意識から考える多様性とは

株式会社コトラ代表取締役社長

田中 滉大 anow編集部 プロデューサー


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特集1:「生活世界の見つけ方〜多様性の中の個性を再考する〜」

今回の特集では、多様性の実現が叫ばれる現代において、その多様性の根源である「個性」のあり方について掘り下げる。
ある特定の条件や評価基準の中だけで成り立つ個性ではなく、その人のあるがままの姿や自然な姿が個性として認められ、受け入れられるために、私たちは何を考え、どのように変化を生み出せば良いのだろうか。インタビューを通じて、多様性の中の個性のあり方を再考する。

多様性というキーワードが重要度を増す現在。

企業や組織におけるダイバーシティへの取り組みやジェンダー格差の解消、また各個人の個性や自由を守っていこうというニュースは、SNSの中でも盛んに取り上げられている。

様々な立場から、企業組織における多様性と個性に関する議論が行われているが、組織のリアルな状況から見る「企業組織にとっての多様性とはなにか?」「企業が多様性を育むことはどのような効果をもたらすか?」という一歩踏み込んだ議論はまだまだ少ないことも事実だろう。

今回のインタビューでは、プロフェッショナル人材サービスを通じて企業の組織づくりを支援する株式会社コトラの大西利佳子氏に、組織づくりのプロとして直面する企業組織における多様性と個性への向き合い方について話を伺った。

PROFILE

大西 利佳子 株式会社コトラ 代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。長銀証券に出向しマーケット業務従事後、事業法人担当として、融資、金融商品アレンジ業務 などを担当。新生銀行になってからは、事業法人本部にて営業企画業務に従事。2002年10月株式会社コトラ設立、代表取締役就任。

「過去の成功体験」が生み出す企業組織の課題

株式会社コトラは、「人が変われば、企業が変わる 企業が変われば、人が活きる」という理念のもと、主にハイクラス人材を対象とした転職・ジョブマッチングサービスや、企業HRのDX化支援、近年注目されている人的資本の観点から行うコンサルティング支援のサービスなど、幅広く企業組織・人材へのサポートを行っている。

株式会社コトラが提供する人材・人的資本サービス群

代表である大西氏は、これまで数多くの企業に対して組織作りや人材サポートを行ってきたが、その背景にはコトラを創業する前に所属していた会社での経験が大きかったという。

大西:私の社会人としてのキャリアは、銀行からスタートしています。当時所属していた銀行は大きな転換点にあり、企業の価値や組織にも大きな変化が必要なタイミングでした。ですが、全ての関係者が努力をしながらも変化を生み出しきれず破綻という結果を迎えてしまいました。

その後、株主なども変わり、新たな人材が外部から入ってきたのですが、その途端に会社の空気感や働く人の活気、サービスや業務に対する考え方がガラッと変わり、ポジティブな方向に動き出すのを目の当たりにしました。

それがきっかけとなり、企業における組織・人材の重要性を感じ、コトラを創業することになりました。

様々な企業の組織や人材の課題解決に取り組んできた大西氏だが、その経験から見える日本の企業組織が抱える課題とはどのようなものだろうか。

大西:前提として、その企業が置かれている環境や状況によって組織の課題も異なっています。着実・確実に業務をこなすことが求められる事業や風土のある企業と、現状からより一層広く可能性を開拓していく必要がある企業では、組織の作り方も違う。

ですが、多くの企業に共通して見られるのは「過去の成功体験にこだわり、押し付ける」という人材が一定以上存在しているということです。

変化に対して保守的になってしまい、組織的な上向きの成長も起こりづらく、結果的に労働生産性の低迷につながります。

もちろん、経営者や管理職層の方々も変化の必要性を感じながら、過去の成功体験に引っ張られてしまい、抜本的な取り組みにまでは至らないというケースは多いと思います。

また、大西氏は先述の創業に至った原体験に触れつつ、次のように語ってくれた。

大西:変化が生み出しにくい組織に対して必要なことは、やはり「外部から新たな人材が入ってくる」という環境変化をいかに生み出し、活かすかだと思います。

先ほど私の原体験のお話をしましたが、従来組織の中だけで変化を常に生み出すということは非常に困難です。だからこそ、常に新しい人材が外部から入ることで、必然的にその組織にこれまでなかった視点や能力が混じり合う環境を作っていくことが重要になります。

多様性は目的ではなく、「イノベーションの条件」だ

大西氏が言及する「外部からの新規人材流入」という視点は、組織内の多様性を重視し向上させるという捉え方もできる。

では、その重要性に関して、大西氏はどのように考えているのだろうか。

大西:私は、企業内のジェンダー格差の解消や人種等のダイバーシティの広がりを作ることが「目的」となっている状況は、大きな課題ではないかと考えています。

企業活動の根本は、お客様に価値を提供し、その対価として金銭をいただくことであり、かつそれによって企業が社会に対して豊かさを還元でき、そこで働く社員も豊かになれることでより一層貢献を行うというサイクルだと私は思っています。

そう述べた上で、大西氏は日本社会が抱えている問題に触れながら、企業が考える多様性の価値について次のように語ってくれた。

大西:現在の日本の経済・ビジネスが直面しているのは次のような状況です。

少子化の影響で労働人口の先細りが確実なものとなっている中、一人一人の労働付加価値が低迷し、人材不足を理由として生産性改善もなかなか進まない。その結果、経済が停滞する未来を、多くの人が感覚としてイメージできてしまっている。

企業が行うべきはこの「停滞感」を打破するために組織にイノベーションを起こし、社会と個を豊かにすることへの「約束」です。

そのイノベーションを起こすために必要な条件のひとつが、従業員の多様性ではないかと私は考えています。

人材が固定している状況では、組織は新たな発想や価値創出を行うことがなかなかできません。そこに、外部環境を経験した外部人材が入ることで、新たな視点・発想を企業内に組み込むことができ、その結果イノベーションを起こすことができる環境が生まれます。

つまり、企業における多様性とは、「イノベーションを生み出すための条件」であると言えるでしょう。

もちろん、企業内の多様性をイノベーションの条件として考えながらも、組織に多様な能力・背景を持った人材が混じり合うことで生まれる新たな課題や摩擦の解消は全ての企業が取り組むべきことですし、それによってイノベーションがより一層スムーズかつ成長性を持って生み出せることにも繋がると思います。

「全体に生かされている個」という意識と教養

企業にとって、多様性は目的ではなくイノベーション創出の大きな条件であるという指摘は、大きなインパクトがあり、かつ多くの企業にとって目の覚める思いがする言葉だろう。

では、企業内の多様性を担う「働く個人」に関して、どのような捉えかたがあるだろうか。

SNSの発展などにより、個性の尊重という考えがグローバルに広がり、大きなポジションを築いている現代において、大西氏は次のように個人と個性を捉えているという。

大西:一般的に個性という言葉を考える時、「自分らしくではなく、自分勝手に生きる」という文脈で捉えられているケースもあるように思います。そして私は、そのような捉え方に対しては再認識の必要があると思っています。

というのも、一人ひとりの人間は自分だけで生きているのではなく、社会という大きな「全体」の一部として生きていて、生かされているからです。社会があるから私たちは生きることができており、だからこそ個人が社会に貢献することでより豊かな社会に変えていく。先ほどお話しした企業活動とも繋がる「全体と個のサイクル」を私たちは再度意識する必要があるのではないでしょうか。

そう考えれば、個性とは「社会に生かされているという前提のもと、自分らしく貢献できることはなんなのか?」という視点から現れるものだと思います。

また、大西氏は現代社会において見られる「個人主義の広がり」に対しても、危機感を持っていると話す。

大西:現代では、社会貢献・社会課題解決に対して関心のある人が増える一方、個人主義的な考え方や生き方に対するニーズも高まっているような気がします。

自分の利益や生きやすさの優先順位が高く、社会や他者に対する意識の優先順位がどんどんと下がってしまうと、極端な例で言えば「あいつは犯罪者だから、有無を言わさず殺してしまおう」という意見や「自分が得をしないから、この街はなくなってしまっていい」という意見が、堂々と蔓延ってしまう社会になります。

様々な社会に様々な人が生きており、それを個人の都合で自分勝手に振る舞った結果、ネガティブな影響を与えるという権利は、どのような個人でも持っていません。

もちろん、個人の幸福追求という視点は大事だと思いますが、それは社会や他者の幸福とのバランスを前提とした話です。

なので、今の世の中に必要なこととして「社会性を前提とした個の教育」があるのではないかと思います。社会や他者のことを考えながら、その中で自分自身の振る舞いを考えることができるような教養を持つことができないと、私たちの社会はより良い方向に進むことはできないでしょう。ミクロとマクロの視点を同時に持つことができる人材を教育を通じて育成していくことが大事なのではないでしょうか。

自分らしく生きられる人の条件は「貢献意欲の高さ」である

いかに自分らしく生きることができるのか。私たちの多くが直面し、葛藤する問いだろう。

大西氏は「家族、地域、企業などの組織といった社会があり、その中に自分という個人・個性がある」という俯瞰の視点が大事と問いかけている。

それは、大西氏自身が取り組む事業の中での気付きでもある。大西氏によると、プロフェッショナルとして活躍する人材に共通する特徴があるというのだ。

大西:私たちはプロ人材を企業とマッチングし、企業のイノベーションと成長を支援する事業を行っています。その中で、特に活躍しているプロ人材の方々に共通する点として「自分の力でいかに企業の成長に貢献できるのか?」という貢献意欲の高い姿勢と自己認識を持っていることが挙げられます。

企業に成長させてもらうという視点ではなく、いかに自分が企業を成長させられるのかという視点を持つ人材ではなければ、その人材を受け入れた企業も成長や変化の機会を失ってしまいます。

そのような人材は、企業成長に貢献するという行動の中で、「自分にはどのような強みがあり、それを活かす方法は何か?」ということに真剣に向き合うことができます。

そこには、その人材の「自分らしさ」がより強く現れることになりますし、いわゆる個性というものは、誰かのために行動する中で出会う自分の特徴だと思います。

自分らしさは作ったりするものではなく、他者・社会への貢献の中で立ち現れ・出会うものなのです。

最後に、これからの企業と個人にとって重要になる点について伺った。

未来予測からも多くの課題が指摘されている日本において、これからの企業と個人に重要なことは、貢献と成長のサイクルを互いに意識しながら、より良い多様性を保つ組織を作ることができるかということでしょう。

そのためには、社会全体で「人材の流動性」を高めていき、貢献意欲の高い個人が積極的に様々な企業組織に入りながら、多発的にイノベーションが生まれていく環境づくりが重要です。

日本は、まだまだ人材の流動性に課題が残っていると思います。その背景には、日本の働き方において一人ひとりの労働生産性・付加価値が低く、利益を多く生み出せないことで、企業も人材に対する投資が行いにくいことが関係しています。

これらは、一つ一つ解決していくのではなく、多角的かつ並行的に取り組んでいかなければなりません。戦略的に取り組むべき課題です。

そのためにも、私たちコトラは、その戦略と重要性を理解し、強みを生かしながら人材の側面から企業の成長を促し、私たちの社会全体の豊かさと成長に貢献していきたいと思っています。

多様性に対する取り組みは、各国政府だけでなく地域や家庭など多くの社会単位で「なぜ必要なのか?」という問いに対してが、「人間の尊厳を広く認めあう社会を作る」という答えでまとまっている。

我々にとって、その結論はある意味当たり前だろう。

しかし、価値を生み出し、会社と社会に還元するという目的を持つ企業活動の中での「多様性」の意義は、少なくとももう一段掘り下げた議論が必要だ。

企業も社会の一員であることに目を向ける時期と認識しており、ダイバーシティ、サスティナビリティやESGといったキーワードで、経営評価とそのフィードバックに活用しはじめている。

大西氏が指摘する「イノベーションの条件としての多様性」や「社会の中の個という考え方」は、多くの企業組織にとって「人材とどう向き合うのか?」という問いに改めて道筋を示す。と同時に我々一人ひとりが、企業の多様性への取り組みのなかで、自らをどう活かしていくかについて、勇気をもって組織の中で改めて対話する絶好の機会ではないだろうか。多様性という新たな道を示してくれるだろう。

田中 滉大 anow編集部 プロデューサー

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