【前編】人と人との出会いから個の成長を促す「100人カイギ」

100人カイギ FOUNDER / 見届け人 高嶋 大介 氏

原田 真希 anow編集部 エディター/リサーチャー


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地域で働く100人の話を起点にクロスジャンルで人のつながりを生むプロジェクト「100人カイギ」は、全国80か所で開催される一大プロジェクトだ。ルールはひとつだけ、「ゲストが100人集まったらコミュニティを解散する!」こと。

創設者である高嶋大介氏は、大企業で働きながらも、個人で100人カイギを立ち上げた。

そこで今回、前編では人を集め、コミュニティを創り、そして解散することを目的とした「100人カイギ」が、今の社会に求められる理由から、後編では大企業に勤めながらも個人で様々な課題の解決に取り組む高嶋氏の働き方から、“個”と“社会”の関係性を紐解く。

特集0:SOCIAL QUANTUMS make another now to happen. 社会の小さな担い手が、新たな『当たり前』を創り出す

今回の特集では、anowと同じく社会を担うために奮闘する“個”を支援する人や組織、コミュニティ、また彼らの存在の意義や定義を考える研究者へのインタビューを通じて、SOCIAL QUANTUMSのあり方や、彼らが活躍していくための条件・要素を深掘り、anowが描く”個と社会の理想的な姿”の糸口を探る。

PROFILE

高嶋 大介 100人カイギ founder / 見届け人

株式会社 INTO THE FABRIC 代表取締役 / けもの道クリエーター
富士通株式会社 グローバルマーケティング本部 マネージャー

自律的に働く人が増える社会をつくりたいと考え、INTO THE FABRICを設立する。「けもの道をつくりながら企業の可能性を探す」ことを得意とし、人と企業の社会のつながりをデザイン(組織/戦略/コミュニティ/イベントマーケティング領域)を行う。ゆるいつながりがこれからの社会を変えると信じ「100人カイギ」をはじめ、多様な人をつなぐ場をつくる活動を行う。サウナと散歩好き。

全く新しいコミュニティ創出のスキーム「100人カイギ」

100人カイギとは、地域で働く100人の話を起点にクロスジャンルで人のつながりを生むプロジェクトだ。地域で活躍する面白い人の話を聞き、地域で働く人同士をつなぎ、肩書や属性ではなく、「想い」でつながるゆるやかなコミュニティを創ることを目的としている。

100人カイギとは…

  • 地域で働く人を毎回5人ゲストに迎える
  • 10分で働き方と働き方の拘りについて語ってもらう
  • ゲスト次第で自由に10分で働き方を表現して貰う
  • 実施内容・運営はすべてオープンにする
  • 働く人をつなぎ、ゆるやかなコミュニティを創る
  • ゲストが参加者に、参加者がゲストに、ゲストがゲストを呼んだりと、地域の実践者を紹介し合う

コミュニティ創出のスキームとして最も特徴的である点は、1つだけ設定されているルールにある。それはなんと「ゲストが100人集まったらコミュニティを解散する!」というもの。ほとんどの場合、「持続可能性」が問われるコミュニティに対し、終わりが決められている100人カイギのスキームには多くの共感者が集い、結果としてより持続的かつ有機的なコミュニティが創出されているという。

100人カイギ唯一のルール(出典:100人カイギ

人が出会い共感することで生まれるコミュニティ

——100人カイギをはじめたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

高嶋

きっかけは港区に声を掛けられたこと。当時、富士通で共創によるイノベーション創出の場「HAB-YU platform(以下HAB-YU)」を運営していました。そこで顧客としてつながりのあった港区の行政職員の方に、「港区に勤めているのだから何か一緒にやりましょうよ」と声を掛けてもらったんです。その頃の自分は確かに港区にある会社で働いていたけど、港区に勤めているということを意識していなかった。声を掛けられてはじめて、「そうか、自分は港区で働いているんだ」と意識させられました。
また当時、同じ会社の人や同じオフィスビルに勤める人って、こんなに近くにいるのに“他人”だなってことにずっと課題を感じていて。同じ会社に勤めていても、10年間全く話さないということはたくさんあるし、同じオフィスビルに勤めて毎朝エレベーターで顔を合わせていても、名前や勤め先は知らないって人がほとんどじゃないですか。知り合うきっかけさえあれば、そこから会話が生まれて、何か面白いことがあるかもしれないのに、どんなに近くにいても知らない人同士は存在しないように思えるみたいな。
そのように感じていたことから、人に対する不干渉というか、そういう違和感をなくしていくにはどうしたらいいのかを考えていたんです。
そこで「港区で働いている」という共通点がきっかけとなって知り合いになれるようなイベントを企画すればいいんじゃないかと思いついたのが100人カイギの始まりです。港区行政としても、「港区には多くの企業があり昼人口は夜間の3.5倍になるにも関わらず、個人としてのつながりは数える程度」だということに課題をお持ちでした。そのため、「港区100人カイギ」は、ゲストに商店街の方、住民、地域で働く人たちを招き、「地域の担い手を育てる」というテーマでコンパクトにゲストの話を聞くイベントに仕立て上げました。また多くの人が知り合う場にしたかったので、5人×20回でゲストを100人呼ぶというルールを作りました。

——ゲストの話を聞くというかたちのイベントにした理由を教えてください。

高嶋:当時、共創の場を運営していたということもあって、いろんなイベントに参加して、出会った人をランチに誘って話を聞くっていう個人的な活動をしていたんです。イベントとは違ってランチという場だと皆さん個人的な話をしてくれて、その話がとっても面白かったんです。

今まで知らなかったことや変えようがなかったことを解決するヒントもいっぱいあって、自分だけで聞くのはもったいないなと思っていました。

なので100人カイギは、できるだけルールを少なくし、会社の肩書やテーマに縛られないかたちで、ゲスト自身が話したいと思う話ができる場にしたかったんです。同じ理由で、100人カイギでゲストにお声がけするのは著名な方でなく、普通に地域にいる方にしました。ゲストと参加者の距離の近さを大切にすることで、100人カイギが終わった後も、「この人と一緒に何かしたい」と思えたり、「自分にも何か出来るかも」と参加者に意識させることができると考えたからです。

——ゲスト100人で解散というルールを設定したのはなぜでしょうか?

高嶋:ビジネスモデルで考えるとひどいわけですよ。ゲストを100人迎えたら必ず終わっちゃうわけですから。ただコミュニティを持続させるのってすごく難しいんです。運営側の熱量とか、コミュニティ内の人間関係や循環が上手くいかなくなって崩壊していくコミュニティもいっぱい見てきていて…。であれば最初から終わりを決めてやればいいのではないかなって思ったんです。終わりを決めてやることで、運営側の熱量も持続しやすいし、コミュニティに参加している回数で優劣も付かず、みんなが共感ベースに集まるポジティブなコミュニティになるんじゃないかなって。またコミュニティとしての終わりを敢えて設定することで、そこで出会った人たちがその出会いを逃さないように、コミュニティの外でも、個人同士でつながっていくのかなと。ある意味100人カイギは、有機的なコミュニティを作る実験でもあるんです。

いつかは100人カイギがなくなればいい

——現在100人カイギはプラットフォームとしてどのように成長しているのでしょうか?

高嶋:100人カイギにおける実験的なコミュニティの創出はすでに成功していて2016年の港区での開催をきっかけに、渋谷、相模原といった様々な地域、医師100人カイギやライター100人カイギといったテーマ軸、SONYやNTTドコモといった企業内での100人カイギなど、いまでは80の地域、企業、学校、テーマへと広がっています。

それぞれの100人カイギは自律分散型組織として機能していて、100人カイギの母体が自ら運営したのは最初の港区だけ。あとは人と人が出会う場を作りたい意思のある個人に100人カイギのブランドとスキームを貸して、独自に運営してもらっているかたちです。実施要望は非常に多く、2016年に第1回の港区100人カイギを実施してから途切れることなく、月に2か所程度で新しい100人カイギが始まっています。そして、100人カイギを運営する運営者がお互いに教えあう運営者コミュニティや、全国の100人カイギを横断するカンファレンスで横のつながりを持ち、プラットフォームとして成長していっています。

ただ今までの話と少し矛盾するんですけど、コミュニティって作るものじゃなくて生まれるものだと思っているんです。人が出会い、そこに共感が生まれれば自然とコミュニティとして成り立っていく。

なので、プラットフォームとして成長していくことにすごく悩みはあります。「100人カイギというプラットフォームがあるから分かりやすいです」や、「終わりがあるから始めやすいです」などという言い方をして、100人カイギのスキームを求めてくれるのはありがたいですし、そういった人たちの支えになるようなプラットフォームにしていきたいとは考えているんです。それに、せっかくここまで大きくなったんだから、10年20年続くものにしていきたいという思いもあります。一方で、こんな仕組みがないと人と人が繋がることができない社会はおかしい、100人カイギのプラットフォームが必要ない社会になればいいのにと思う自分もいます。それは相反するわけですよ。なくなればいいのにと思いつつも、20年続いてほしいという両方の目標を持っているわけです。

2022年11月時点での100人カイギ開催実績(出典:100人カイギ

——100人カイギはなぜ今の社会に求められていると思われますか?

高嶋:地域軸で考えると、今までは自治体が地域に住んでいる人や地域で働いている人に注目することは少なかったですし、企業軸で考えても、企業が勤めている社員にフォーカスすることって少なかったと思うんです。

それが現在では、ボトムアップ型のまちづくりの重要性が明らかになってきたり、キャリアの考え方も企業の決定に社員が従うのではなく、社員個人の意思でジョブを選択していくかたちになっているからこそ、より個に着目したイベントやコミュニティ形成の方法として100人カイギが求められているんだと思います。 あとは100人カイギってすごいシンプルなんですね。あくまでもゲストと参加者が知り合う場所であって、その後のつながりは共感ベースで勝手に作られていくみたいな。共感のための仕組みはちゃんとフォーマットの中に埋め込んでいるので、繋ごうとしていないわけではないんだけれども、無理やり繋ぐのではなく個人の意思を尊重しているんです。それが今の社会にフィットしたのかもしれません。

結果的には多くのコミュニティを創出する100人カイギだが、前述のように高嶋氏が目指す100人カイギはあくまでも人が知り合う場として成立することである。「始めたときは、自分の課題と自分の周りの課題がマッチしただけ。社会善とかじゃなくて独善だったんです。」と高嶋氏が言うように、きっかけもコミュニティ創出という社会課題へのアプローチではなく、自身とその周りを少し良くしたいという想いにある。しかし、利己的な目的ではなく、他者への共感をベースに個がつながるスキームが少ない現代社会において、そういったつながりを求める個が増えてきているということには、多くの人々の頷くのではないだろうか。、だからこそ、そのきっかけとして100人カイギは急速に広まっていったと考えられる。今後、より社会が成熟し、他者への共感による行動が世の中に増えていくのであれば、個人が会社やプラットフォームを通さずに自然と繋がり合うことが容易になり、100人カイギの在り方も高嶋氏の考える相反した2つの目標が矛盾しない新しい形へと変わっていくかもしれない。

原田 真希 anow編集部 エディター/リサーチャー

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