正頭先生：勉強に重要なのは熱量とモチベーションです。ゲームを活用すると子どもたちの熱量は一気に高まります。当時は英語を教えており、子どもが間違いを避け、黙ってしまう傾向に課題を感じていました。英語学習は本来、間違える→指摘される→改善するというというプロセスを通じて力がつくものですが、通常の授業ではその循環が機能しにくい。マインクラフトを活用しグループワークで建築する、ただし会話は英語のみというルールで授業を行うと、子どもたちが急に英語を喋り出すんです。間違えることへの恐怖心よりも、友達と意思疎通を図り、ゲームを進行させたい気持ちが勝る。それってすごいことだなと思ったのをよく覚えています。

正頭先生：入り口は“楽しそう”でいい。でも、その先にある知的な面白さに子どもたちが気付いてくれれば本物の学びに繋がります。だから僕は、子どもたちの熱量を創り出すこと、とりあえずやってみるのハードルを下げることを大事にしていて、ゲームやAIを授業に活用するのもそのためです。

正頭先生：僕の授業では数年前から実際にAIを活用しています。OpenAIが開発した対話型生成AIであるChatGPTやGoogle開発の多機能AIアシスタントGeminiなど多くの生成AIの利用には、原則13歳以上であることが求められますが、教育機関向けに一部年齢制限を緩和しているCanva AIのようなツールもあります。

「AIを利用することで子どもたちの思考力が奪われる」といった意見がないわけではないです。ただしこれは「電卓が誕生したときに人類の計算力が落ちると言われたが実際には落ちていない」「同時翻訳機が誕生したときに英語を学ぶ人はいなくなると言われたがむしろ増えている」というのと一緒で、世の中はそんなに単純なものではありません。文部科学省もAI利活用を前向きにとらえていて、AIを利用することでむしろ子どもたちの思考力や独創性は磨かれると思っています。

また保護者からのAI利用について否定的ももちろんあるのですが、むしろこれからの社会ではAIを全く使わないことはあり得ないので、初等中等教育段階で正しいAIの使い方やAIとの向き合い方を教えてほしいという声が大きいです。

正頭先生：AIに作文を書かせることで作文力が落ちる、計算させることで計算力が落ちる、つまり学力が低下するとは思いませんが、もしそうだった場合でも、そもそも今の時代「学力」って何で測れるのか？という議論につながると思っています。2000年代前半までの学力は暗記と計算だった。今の子どもたちに求められる学力は「表現力」とそれを支える「思考力」、思考する力を育てる「感受性」です。今までは徳川15代将軍を覚えていることが賢かったけれど、今の時代は徳川15代将軍の残した記録から何を生み出せるかが重要になってきています。知識を教えるのではなく、知識を活用することが重要な時代に変わってきているんです。

正頭先生：Society 5.0が到来している今の時代、私たち教員や保護者に求められていることは「教わったように教えないこと」です。知識の差はICTで埋められる時代が今の時代です。知識の量で競う時代は終わりを迎えており、学校で教えるべきは知識ではなく体験です。

正頭先生：これまでは問題を解決する能力、つまり正解を導き出せる能力が大切でした。しかし、これからの時代は正解が一つとは限らない問題が山積みです。自らが問いを持ち、自分なりの答えを生み出す問題発見力が求められるようになります。問題を発見するためには、行動が欠かせません。行動するためにはモチベーションが必要ですが、モチベーションがレアな時代になっています。

正頭先生：今の子どもたちは「○○やってみる？」と聞くと多くの子がYESと答えるけど、「何かやってみたいことはある？」ときくと8割が「わからない」と答えます。こうしたモチベーションを生み出しにくい子どもたちに寄り添うことが、現代の教育において重要な課題です。

正頭先生：ファスト映画というTikTokアカウントが流行っているように、映画も漫画もネタバレを見て、楽しいこと、自分の好みにあっていることが保証されてから本篇を見るのが今の子どもたちです。理科の実験をしてても「この液体を2つ合わせたら何色になると思う？」と問いかけると全く興味を持たずに、「知らない」というだけ。ただ「この液体を2つ合わせると青くなるよ」と最初に答えを教えてあげると、興味を持ち「すごい！」と感心し、「僕にもやらせて」と主体的になります。子どもたちは答えが分かっているものを好む傾向があります。

正頭先生：AIの活用方法として今最も期待している領域がまさにこの「モチベーション生成・維持」です。何かをやりたいことを見つける、そしてやり続けることに対してのアシスト、それは人によっては結論や次のステップを見せること、めんどくさい諸業務を代わりにやってくれることなど様々ですが、様々な方法でモチベーション生成・維持の障壁を取り払う力がAIにはあると思っています。

正頭先生：今の子どもたちが主体的にする体験は「調べる」「作る」「試す」に集約します。これらの体験を加速させるのがAIの役割です。子どもたちの「やってみたい」を阻害する要因は「知識」「予算」「法律」の3つですが、その内「知識」と「予算」の2つはAIを活用した学びが促進されることによってクリアできる可能性が高まります。

正頭先生：これからの子どもたちに求められる能力を問われることが多くありますが、答えは「わからない」です。つい最近までAIは単純作業を代替えし、クリエイティブな仕事だけが人間に残されると言われていましたが、実際には今、クリエイティブな仕事からAIに代替えされていっています。同じように今の人間がする予想なんて、いとも簡単に覆る。そんな世の中で、子ども達が身に着けるべき能力を問われてもわからない。ただ一つわかるのは、子どもたちが幸せに生きるためには「好きが多い」「やりたいことがある」、つまりモチベーションがあった方が良いということです。子ども特有の知的好奇心が高い状態のまま、かつそこから生み出されるモチベーションを維持する方法を身に付けて大人にしてあげることが大切。そうすることで今は予想できないどんな未来がやってきたとしても、「面白そう！」とポジティブに捉えられるのかなと思います。

正頭先生：現在、AIに対するプロンプト設計の重要性は相対的に低下しつつあり、自然言語によって十分に適切な応答を得られるようになってきています。つまり、AIとの会話は、次第に人間との会話と区別がつかなくなりつつあるのです。しかし、対人コミュニケーションには、相手に「感情」が存在するという決定的な違いがあります。

学校というのは、さまざまな価値観や文化的背景、家庭環境を持つ人々が一堂に会する、極めて多様性に富んだ空間です。だからこそ学校は、単なる知識の習得の場ではなく、他者との関わりの中で「共に生きる力」を育むための「実践の場」でもあるべきだと考えています。そのため授業内では、相手に気を使い、何も言わないことを良しとするのではなく、相手の立場に立ち、思いやりをもって言葉を選ぶことを重視しています。その実践を通して、イマジネーション力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力の向上を図っているのです。そしてそれらの力をさらに深化させる鍵となるのが、「価値観を崩すこと」と「アンテナを広げること」です。「価値観を崩す」は外部リソースによって起こるもの、「アンテナを広げる」は自主自律的に行うものですが、学校ではそのどちらもを教員がサポートしてあげる必要があると思っています。またこの二つも、AIが得意な領域です。

正頭先生：僕ら教員は子どもと関わる時間を増やすことがとにかく大切。授業計画の作成、成績管理や事務作業など、いわゆる校務の時間削減のために、まずAI活用が可能だと思っています。また近年、時間外労働の多さや賃金の低さから教員という職業の人気が下がっている。そしてそのしわ寄せは現場の教員に来ている。AIによる教員の働き方改革には、現職の教員を助け、さらに教員になりたいという若者を増やせる可能性があります。

正頭先生：学校の授業内でのAIの活用、特に児童生徒が自らAIを使っていくことについては、学校としての取り決めや、保護者の了承、先生自身の知識やスキル不足など、壁が多いです。そもそもOpenAIが開発した対話型生成AIであるChatGPTやGoogle開発の多機能AIアシスタントGeminiなど多くの生成AIの利用には、原則13歳以上であることが求められるため、小学生の利用は難しい。一方で、教員の働き方改革、「教員のパートナー」としてのAI活用は、教育に関わる全ての人が賛成している状態。まずは校務の分野でAI活用が広まり、そこでAIに触れた先生達が、独自に授業へ展開していくというのが、教育現場でのAIの広がり方だと思います。